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インディーゲームの小棚:Shelf#07『日常侵食ホラー つぐのひ』

Posted on 2013年3月20日水曜日 | 2 Comments

深夜に女性の悲鳴で目を覚まし、恐る恐る家を出たものの、しんと静まりかえる夜の帳が広がっていただけだった、という経験のある筆者がお送りする「インディーゲームの小棚」第7回は、日常に潜む不気味な恐怖を描く短編ホラー『日常侵食ホラー つぐのひ(以下、つぐのひ)』を紹介する。『メタルギアソリッド』風に「気のせいか……」と胸を撫で下ろしたものの、心中に残ったモヤモヤは数日晴れなかったのは言うまでもない。

※本連載「インディーゲームの小棚」は、4Gamerで連載されている「インディーズゲームの小部屋」のタイトルとコンセプトを真似たものですが、「インディーズゲームの小部屋」との関連は(私が一方的にファンであるというだけで)一切ございません。

4Gamer - インディーズゲームの小部屋
http://www.4gamer.net/words/001/W00176/

しあん氏が開発を手がける本作は、RPツクール2000で開発されている。公式サイトによると、しあん氏はほかにもいくつかのゲームを手がけており、『つぐのひ』も含め、すべてのゲームがRPGツクール2000で製作されているようだ。なお、『つぐのひ』はRTPなしで動作する。

しあん氏の公式サイト I'm Cyan



http://imcyan.web.fc2.com/

「RPGツクール」と耳にすると、スーパーファミコン後期のようなドット絵を想像しがちだが、本作は実写ベースのグラフィックで、パッと見の印象にいわゆるRPGツクールっぽさはまったくない。登場人物のグラフィックは実写を使用したうえで目のあたりにぼかしっぽい処理が入っており、これがなんとも言えない風合いを醸し出している。
匿名性を帯びた主人公の描写が、より不気味な世界観を演出している
「日常侵食ホラー」と題されているとおり、普段のふとした隙に潜んでいそうな恐怖を描かいているのが本作の特徴だ。誰にでもある「視界の隅で一瞬何かが動いた気がする」とか、「帰宅したらなんとなく部屋の様子が違うような違和感がある」といったような現象を、恐怖や不安へと結びつけて描写している。そして『つぐのひ』では、かような不安を煽る奇妙な現象が一日ずつ(つまり「つぎのひ」になるたびに)、主人公へと忍び寄っていく。
第一話の主人公は男子学生
帰り道でいつも不安になるような場所は、誰にでもあるものだ
第二話の主人公は女子学生
ある日、彼女は交差点に佇む異様な雰囲気の女を見つける
基本的に操作はカーソルキー(ゲームパッドならそれに準ずる操作)のみで行う。左を押せば人物が左に歩き、キーから手を放せばその場で立ち止まるといった具合で、ノベルゲームと異なる独特の手触りが個人的には好感触だった。

第一話は5分程度、第二話は10分程度と、本作のプレイ時間は極めて短い。しかも内容を話そうとすると、ほとんどネタバレになってしまうため、個人的にはあまり語りたくない。とは言っても、これでは紹介としてあまりにあっさりすぎるため、ひとつだけ付け加えておこう。

『つぐのひ』の持つ怖さは、マンガ『不安の種』*1のそれに近い。

両者で描かれているのは、絶対に触れてはいけない嫌悪や不快の塊とも言うべき対象である(特に第二話)。だが、いくら我々が目を背けようとも「それら」は確かに日常に潜んでいるのだ。「それら」が不気味なのは、その原因について想像する余地はあっても、原因を特定する術がない点である。恐怖を克服するためには対象を知って活路を見出さなければならない。にもかかわらず「それら」が明確な因果を持たぬがゆえに、知ったが最後、我々は逃れられない不安の袋小路に追いやられてしまうのである。

『つぐのひ』も『不安の種』も根底に流れているのはどこまでも有機的な戦慄だ。いずれの作品も物語の受け手に漠然とした恐怖や不安を植え付けていくのは、大きな共通点と言っていいだろう。心の動揺がじっとりとした汗となって溢れ、身体を強張らせてしまうような不快な味わいがある。

*1 中山昌亮によるホラー漫画シリーズ。秋田書店刊。2013年には実写映画が公開予定となっている。『不安の種+』の1巻の一部はWeb上で試し読みができる。有名な「オチョナンさん」のエピソードもあるので、知らない人もこの機会に一読をオススメしたい。

ソク読み - 『不安の種+』 1巻
http://sokuyomi.jp/product/fuannotane_002/CO/1/
※試し読みは、リンク先の「試し読みする」から

実写を使ったビジュアルも素晴らしいが、特筆すべきは音響周りだろう。音声をベースにした心をざわつかせるSEが多数用いられており、プレイヤーの心理を不安で絡めとっていく。雑踏の音を意図的に消して無音を作るといった演出もシンプルながら随所で効いている。

『つぐのひ』はこの手のホラーゲームのご多分に漏れず、夜間に部屋を暗くしてヘッドフォンでプレイするのがオススメだ。ただし、第二話では一部音量が大きくなるシーンがあるので、プレイ時の音量には注意してほしい。2つの物語を比較した場合、第二話のほうが全体的な完成度がずっと高いので、第一話を過去にプレイした人にも第二話を勧めておきたい。
「つぎのひ」が繰り返されるたび、それは彼らとの距離を縮めていく
(画像は編集ミスではなく、もともと文字が薄暗く表示されている)
『つぐのひ』はふりーむ!にて公開中。第一話、第二話ともに無料で公開されている。

ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ』(第一話相当)
http://www.freem.ne.jp/win/game/4381
ふりーむ! - 『日常侵食ホラー つぐのひ 第二話』
http://www.freem.ne.jp/win/game/4734

現在のところ、第三話の予定があるかどうかは不明だ。開発のしあん氏は現在、戦闘つきの和風アドベンチャー『雪絵』を開発しているようで、こちらは2012年度内の完成を目指している様子。このため、『つぐのひ』の動きは2013年度以降になりそうだ。『雪絵』も個人的な好みの雰囲気を感じ取れるのでいつかプレイしてみたい。

『雪絵』公式サイト
※このサイトは音が鳴る。画面下部のプレイヤーから停止可能
http://imcyan.web.fc2.com/yukie/index.htm
2013年3月21日追記
Twitterで見かけたことを2点追記しておく。

本作の第二話には、『夕闇通り探検隊』のような360度見渡せるシーンがある。ただし、『夕闇通り探検隊』で採用されていたシームレスなパノラマビューではなく、90度ずつ向きを変えるシステムだ。筆者は『夕闇通り探検隊』を未プレイなのでプレイ動画などを少し観てみたのだが、フォントのテイストなどから「同作のファンだったりするのかもな」と感じた(実際に関連があるのかは定かではない)。

『つぐのひ』の第二話は、ストーリー分岐がある。通常エンドと異なるアナザーエンドは、ビジュアルもテキストもかなりネタっぽい作りなので、何の配慮もなく、以下にアナザーエンドに入る条件を記載しておく。

『日常侵食ホラー つぐのひ 第二話』分岐条件
 一度も振り向かない

アナザーエンドは別の意味でホラーな方向性になってしまっているが、気づいていない人も多いかと思うので確かめてみてはいかがだろうか。

Comments:2

  1. いつも良質なインディーズゲーを紹介してくれてありがとうございます。
    ほんと助かります。 

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    1. そう言っていただけると励みになります!

      個人的にオススメしたいゲームを紹介していくので
      必ずしも好みのゲームではないかと思いますが、
      興味がわきましたら、ぜひプレイしてみてください。

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