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『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編

Posted on 2013年1月16日水曜日 | No Comments

『LA-MULANA』の開発チーム、NIGOROでディレクターを務める楢村匠(ならむらたくみ)氏に行ったインタビューの後編。ゲームそのものから少し離れて、開発と販売に関する話を伺った。

関連記事:
ファーストインプレッション『LA-MULANA』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/la-mulana.html
『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.com/2013/01/la-mulana.html

日本のインディーゲームが海を渡るということ

――海外でのリリースにあたり、いちばん必要なもののはなんだと思いますか。
楢村 日本人の持つ几帳面さと繊細さですかね。でもそれは日本に住んで日本のゲームで育っていれば自然と体に染み付いていると思うので、自分がおもしろいと思うものを納得いくまで作りこむ職人気質のほうが必要かもしれません。僕は国が違おうが人種が違おうが、人間がおもしろいと興奮する感覚はそれほど違うわけがないと思っています。困難を乗り越えて障害をクリアしたら誰だって喜びますし興奮します。もちろん、絵柄や世界観などの好みの違いはあるでしょうが、ゲームな訳ですからおもしろさがしっかり成立しているもの、緊張と緩和、抑圧と開放みたいな対比のバランスが取れて、プレーヤーの心を揺さぶることができていれば、変に海外受けを狙うよりもしっかりと評価されると信じてやっています。あと、日本語を使うのは日本だけなわけで、テキスト量が多いと海外で売るための翻訳作業が大変なことになります。だからといって、メッセージがまったくないRPGなんてできるわけもないですし、「ストーリーの展開を中心にすえた日本のゲームが好みだ」と言う海外のプレイヤーもいますから、テキストを減らせばいいというだけの問題でもないので悩みどころです。「START」とか「PLAY」とか「GAME OVER」みたいな、どんなゲームでも使うような言葉をいろんな言語で羅列したような資料があれば助かるのにと思います。
地域による好みの差を表したイメージ図がこちら(楢村氏の台湾での講演スライドより)
――言語のほかに、売るための場所の問題もあったりしますね。
楢村 自分たちでゲームを配信し始めると、日本のインディーゲームがぶつかる壁みたいなものがすぐに見えました。日本のインディーゲームに注目して、自力で翻訳してまで遊ぶと言う熱心なファンもいるにはいるんですが、そんなに数がいるわけではありません。
――絶対数で言えば、やはり少ないですよね。
楢村 『洞窟物語』の天谷さん*1と話していて、「少なくとも自分たちに近い世代の作り手は、売るために作るのではなくて作りたいから作るタイプの人が多そうだ」って話になったんですね。「自分が作りたいものを納得いくまで作りたい」という職人タイプとでも言いますか……。だから作り終えても売るのではなく、フリーで公開するんじゃないか、と。つまり、日本のインディーゲームは職人がそれぞれの場所で腕を磨いているような感じで、「日本のインディーゲームはこういう傾向だ」みたいにまとめられないんじゃないか、と思うんです。レコード屋にインディーズコーナーを作りたいけど、コーナーを作るだけの枚数が集まらない、みたいな……。なので日本のインディーゲームに対して、海外のより多くの人に興味を持ってもらうためには、何かしらの形で日本のインディーゲームが集まっている場所が必要だと考えていました。日本インディーコーナーが充実しないと知る人だけしか知らない狭い市場になってしまうのではないか、と。自分たちが今後も世界に向けて活動をするためにも、やっぱり安定した売り場がないと続けていけないと思います。移動販売車で売って回るよりも、大型スーパーに置いてもらったほうが売れるし、手間も減るだろうって考えです。

*1 天谷大輔氏。個人のゲーム開発者で、フリーゲームの金字塔とも言うべき存在、『洞窟物語』を手がけたことで知られている

――日本で「インディーゲーム」と言うと、フリーゲームに同人ゲーム、シェアウェアなどが混在しおり、これらが一緒に語られる場合も多いです。その良し悪しは置いておくにしても、結果的に話がややこしくなっているきらいがあります。NIGOROはインディーデベロッパを自認していると思うのですが、楢村さんは「インディーゲーム」の定義をどのように考えていますか。
楢村 Steamで日本語訳されているような、「独立系開発会社」というのがいちばんイメージが近いと思います。もちろん、個人で製作している人も、会社にまではしていないというところもあるでしょうが、物を売る以上は配信サービスと契約を結ばなければならないので、仕事としての商売になると思います。日本では「同人」という言葉のほうが早くから浸透していたり、フリーや個人口座振込みの自前販売、コミケのようなコミックの流通形態に乗った形があったりするので、日本では「ゲーム会社に勤めずにゲーム作ってる人」というまとめかたになっているかなー、と感じます。そうなると、ウチのように最初から会社として自前で広報やサイト運営までやっていると、「お前らはゲーム開発会社だろう」と言われてしまうのがどうしたものかと思っています。個人的な考えですが、「『既存の流通に乗らず、メディアでも紹介されないゲーム』がインディーゲームかな?」と思うんです。でも、最近だと個人製作のゲームを企業が買い取って企業の商品として流通したりするもんだから、ますます混在してしまってますね。同じようにゲーム作りをしている人のあいだでも、パソコンゲーム、スマホゲーム、ノベルゲームみたいな感じに棲み分けされているようにも感じます。こんな風にインディーゲームという言葉が定義が定着するより前に細かく枝分かれしてしまったのも「日本のインディーゲーム」とまとめられない原因だと思います。これはもう、やってる本人たちが「自分はインディーズ」と言うか言わないかしかないのではないでしょうか。

全国に散らばるメンバーと開発の難しさについて

――NIGOROは、ひとつの会社に皆で出勤するという形ではなく、日本中に散らばっていますが、やはり苦労も多いのでしょうか。
『GR3EX』起動時のロゴ
やはりMSXを強く意識しているのがわかる
楢村 アマチュア時代からこの形で続けてますから、もう手馴れたものではあります。初期の頃はネットでのやりとりだけが唯一の連絡手段だったので、ネット上に現れないと連絡の取りようがない、ということは多々ありました。さらに作ってもらいたいものを指示するにもネット経由なわけで、最初は苦労したものです。それにアマチュア時代はMSX風*2に作るという意思統一がありましたから、指示が抜けてたり、ちゃんと伝えきれていなくても、各々がMSXという実在する環境に似せようとしているので、そこまでおかしなものができることはありませんでした。しかし、NIGOROになってからは、企画者である自分がプログラマにうまく伝えられていないと、意図しないものができあがってきます。意図しないものがあがってくれば、当然、リテイクが発生して時間を消費してしまいますから、製作時間を延ばさないように、それによってだらけてしまわないように、スタート時に手間暇かけるようになりました。最初に企画書を作ってイメージの意思統一を行い、仕様書サイトを作ってそこに指示を書いていきます。動くものを作ってもらうのに文字だけだと伝えにくいので、絵を先に仕上げたり、Flashで動きの説明ムービーを作ったりしています。また、規模の大きなゲームを作るときは、必ずホテルに数日こもらせてもらって企画を練る、ってことををさせてもらってます。

*2 インタビュー中でも何度か言及されているMSXは、簡単に言うと、ゲームができるすごく昔のパソコン。MSX好きが集まった結果、『LA-MULANA』が生まれたのはインタビュー前編でも触れたとおり
リメイク版『LA-MULANA』には、同機をもじったMobileSuperXが登場する
インタビュー中で言及されていた『LA-MULANA』の仕様書サイトから、一部をキャプチャしたものが以下の画像。日付や具体的な指示、数値なども入っており、細かなやりとりを垣間見ることができる(画像クリックで拡大)。


――NIGOROと同様にネット上で仲間を集めるといったスタイルで、ゲーム開発を考えている人たち、あるいは過去の自分にアドバイスするとしたら、何を伝えますか。
楢村 なかなか近い環境でゲーム作りの仲間を集めるのは難しいとは思います。いちばんのポイントは同じレベルの人間を集めるってことでしょうか。とにかく募集して集まった面子で続けるのは難しいと思います。我々の場合、僕が運営していたゲームサイトに集まった常連に声をかけてますから、集まる前にある程度の人格とか考え方とかをわかったうえで誘っています。それにゲームを分担して作るとなると、大変な作業ですし、時間もかかるわけです。担当ごとに製作時間もバラバラなわけで、物理的に距離が離れた者同士が相手を待っての作業となると、自分のペースで作れないということになります。そうなるとイライラも募りだすものです。さらに担当ごとに趣味が違ったりすると、他人の成果に文句もつけたくなりますし、「最高の作品を作りたい」と意気込む人と「楽しそうだから参加してみた」っていう人とではイライラの募り具合も違うでしょう。しかもネット越しに製作してるってことは、ハンドルネームとメールアドレスも変えてしまえば、容易に失踪できてしまうわけで……。我々はNIGOROとして再スタートするときに1度、1箇所に集まって顔合わせしました。これからは仕事としてお金も絡むわけだから、実際に相対して「この人とやっている」と感じることが重要だと思ったからです。長くなりましたが、仲間を集めるにネットが便利なのは間違いないので、いきなり作るよりはまず長く続けられる仲間を探すことでしょうか。できあがりのイメージも、好みや趣味も、完成への意欲も、目指している「レベル」が近い仲間のほうが続けていけると思います。あとゲームでも絵でも自サイトでもいいですが、「長い時間をかけてでも、自力で何かを完成させたことがある人」ってのも時間のかかるゲーム作りをあきらめずに続けていくには重要な要素かな。

NIGOROのこれから

――今後の活動予定をお教えいただけますか。
楢村 もちろん、新しいものをこれからも作っていくわけですが、活動を続けていくためには『LA-MULANA』がじわじわとでも資金を稼いでくれないと、我々も続けていけません。ネット販売は品切れがない代わりに自分たちで動きを見せなければ注目もされないので、後からステージを追加したり改造したりできるMOD対応にしてあります。「ツールを公開しないのか?」と言われてますが、公開するには最低限他人が使える形にしないといけません。メニューを英語化するとか、Windows 7以降でも使えるとかですね。それよりもまだDesuraで配信されてからあまり経ってない新作(笑)なわけですから、ちょっとまだ出すには早すぎるかな、と思ってます。昔、ファミコンの『ゼビウス』が発売されてから1年後に無敵コマンドが発見……公開かな?*3 ……されてみんな再びゼビウスを引っ張り出したような、ああいう盛り上がり方が理想です。

*3 筆者はこのことを詳しく知らないので調べてみると、雑誌「コンプティーク」の1985年7/8月号が、この無敵コマンドを最初に取り上げたメディアだったようだ。ファミコン版『ゼビウス』の発売が1984年11月なそうなので、ソフトの発売から半年近く経ってからこのコマンドが掲載されたことになる。これによって冷めつつあった『ゼビウス』の人気を再燃させたほか、ゲーム中の隠しコマンド、いわゆる裏技ブームが到来したとのことらしい(それまでは、裏技と言えば公式に用意されたものではなく、ゲームのバグを用いたものであった)。参考として記事を1つ貼っておく

ファミ通.com - ゲーム人生回顧録 - 乱舞吉田 第25回 ファミコン:その10(『ゼビウス』) 
http://www.famitsu.com/game/serial/1140139_1152.html

――新作の話もチラホラ聞こえてきていますね。
楢村 ゲームのほうはすでに新しいものを作り始めたところです。アクションゲームサイド*4のインタビューでも触れたとおり、シューティングゲームを作っています。これはPLAYISMにできるだけ早く作品を提供したいっていうことで、比較的プログラムが速く仕上げられるシューティングということになりました*5。シューティングと言っても僕はひねくれものなので、今、主流の弾幕シューティングではなく、地形のある横スクロールシューティングです。妙な仕組みのシューティングになる予定です。年末だったり*6、『LA-MULANA』にもまだ動きが残ってそうだったりで時間を奪われがちなんですが、なんとか1年かけずに作れないか、という挑戦も含んでいます。あとは『LA-MULANA』と違い、最初からパソコン版としてリリースするわけで、今後、この活動を続けていくうえでの作業工程を固めたいと思っています。そんな縛りがあるなかで、どこまで特徴のあるシューティングにできるか、どれだけくだらないことにこだわれるかも大事にしたいです。近いうちにタイトルの発表や体験版でも出せればと思っています。
新作シューティングの画面写真。『グラディウス』ライクなパワーアップシステムを想起させるHUD、
それに東京スカイツリーらしき建造物が見える
新作の主人公「リラ・ユーロ」のラフ(キャラクター名は、このインタビューが初公開)
リラ(トルコ通貨)、ユーロ、そしてデザインの「¥」と、「お金」がキーポイントとなりそうだ
*4 2012年9月にマイクロマガジン社より創刊された、2Dアクションゲーム専門誌。2012年の話題作『LA-MULANA』の開発者として、楢村氏のインタビューが掲載されている。個人的には「串カツ屋での心中話」が見どころ(詳しくはアクションゲームサイド Vol.1を読んでみてほしい)。なお、PLAYISMのブログでもこの心中の話がチラリと出ている

ゲームサイド公式サイト - アクションゲームサイド Vol.1
http://gameside.jp/ags/ags1/
ゲーム ダウンロード販売 PLAYISMブログ - 【La-Mulana】LA-MULANAと日本インディーズゲームの未来の話。
http://playism.blogspot.jp/2012/10/la-mulana.html

*5 タイトルや詳細は明らかになっていないが、台湾で楢村氏が行った講演のスライドにも画面写真数点とキャラクターイメージが出てきており、徐々に情報が明かされつつある。講演の詳細は、NIGORO公式ブログを参照のこと

NIGORO公式ブログ - 台湾でしゃべりました
http://nigoro.jp/ja/2012/12/i-spoke-in-taipei/

*6 インタビューを行ったのは、2012年の年末である

最後に

――――インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
楢村 アマチュア時代に「ネットが発達して、ゲームをネットで販売するというのはいけるかもしれないぞ」と考えてNIGOROを始めました。その後、「海外で爆発的に売れて大成功したインディーゲームが出てきているぞ」と聞いて、「日本でもインディーゲーム製作を仕事としてやっていけるかも」と考えて、PLAYISMとともに『LA-MULANA』を販売しているわけですが、なかなか思うように進みませんし、諸手を上げて大喜びできるような成功にもまだまだたどりつきません。自分たちの成功ももちろんですが、『LA-MULANA』に限らず誰かが成功させることができれば、日本のインディーゲームの可能性がもっと広がるのでは、と思っています。インディーゲームは市販ゲームと違って売上が発表されるようなものはほとんどないため、チャレンジしようにもどのぐらい売れるのかという目処もつかないと思います。我々の目標だと「1000円ぐらいのものが5万本でも売れれば、今の人数で次の1本を1年ぐらいかけて続けられるのに」という感じです。現状、そこまで達していないので、ほかの仕事をしながら続けていくしかない状態です。苦しいながらも日本のインディーゲームの発展はまだまだこれからで伸びしろがあるのも体感していますから、ここであきらめず食らいついていきたいと思っています。それと「インディーゲームとして活躍したい!」という人は、時間のある学生のうちから取り組むのがいいよ、とも言いたいです。

『LA-MULANA』公式サイト
http://la-mulana.com/
NIGORO公式サイト
http://nigoro.jp/
PLAYISM 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/
GOG 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.gog.com/gamecard/la_mulana
Desura 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.desura.com/games/la-mulana

インタビュー時は未確定であった『LA-MULANA』のSteamリリース。2013年1月16日付で同作はSteam Greenlightを突破したGreenlitタイトルとなり、Steamでのリリースが決定している。これは開発チームNIGOROの今後を占ううえでも、大きな一歩となりそうだ。同作と、NIGOROのさらなる活躍に期待したい。

ゲーム ダウンロード販売 PLAYISMブログ - La-Mulana GreenLight突破!

インタビュー後編から読み始めた人もいるかもしれないので、前編について説明しておく。前編では『LA-MULANA』をリリースして感じている手応え、開発に対する姿勢、海外でのWiiウェア版『LA-MULANA』キャンセル騒動などについて語っている。

関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
http://nydgamer.blogspot.com/2013/01/la-mulana.html

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