『LA-MULANA』開発者インタビュー 前編
Posted on 2013年1月16日水曜日
|
No Comments
昨年の話題作のひとつ『LA-MULANA』。同作のPC版リリース決定時からの個人的な願いが、この『LA-MULANA』の開発NIGOROへのインタビューであった。この夢が晴れて実現したので公開したい。
インタビューに応えていただいたのは、ディレクターの楢村匠(ならむらたくみ)氏。『LA-MULANA』の今、GreenlightにKickstarter、海外でリリースすることの難しさ、そしてファンは特に気になるであろう新作の話も伺った。読み応え十分の内容に仕上がっているので、ぜひとも期待して読んでほしい。
結構な文量となってしまったので、前編と後編の2部構成にしてある。
関連記事:
ファーストインプレッション『LA-MULANA』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/la-mulana.html
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html
楢村 NIGOROのディレクター、楢村です。我々の活動は10年以上前にさかのぼります。当時、MSXゲームを扱う個人サイトを運営していたときに、サイトの常連だったプログラマ2人に「ゲームを作ってみたい」と僕が声をかけたのが始まりです。グラディウスタイプの横シューティング*1、次いで『LA-MULANA』を発表し、予想を超えて海外でも高評価を得られました。そこから「ゲーム作りを仕事にできないか」と思いたち、アマチュア活動を終了してスタートしたのがNIGOROです。趣味で始めたものなので、特にテーマもコンセプトもなく好きなように作ってきただけなんですが、NIGOROスタートとともに掲げたコンセプトが「レトロゲームの進化系」ですかね*2。
*1 タイトルは『GR3』。ポーズ中にキーボードから「GRADIUS」と入力する隠しコマンドも存在している。なお、NIGOROの前身となるチームの名がGR3 PROJECT。オリジナル版の『LA-MULANA』の開発は5年にも及び、GR3 PROJECTとしての活動期間は8年程度となる
*2 GR3 PROJECT解散時に楢村氏がブログで書いていた文章からも、彼らのポリシー、こだわりといったものを感じられるので一読をオススメしたい
三匹が企む - 振り返ってみよう
http://3hiki.blogspot.jp/2011/06/blog-post_19.html
楢村 NIGOROは、最初からゲームを販売することを目標に立ち上げたチームでした。ただ、最初からゲームを売っていたわけではなくて、スタートから2年ほどは無料のFlashゲームを公開して、そこからFlashゲームの製作の仕事の話をもらったりしていました。もちろん、そのあいだも自分たちで世界に向けてゲームを販売する手段、特にコンシューマ機でリリースする方法はないかと模索していました。そんなところに飛び込んできたのが「『LA-MULANA』をWiiウェアで出さないか」という話です*3。我々としても、そこに飛びつくほかないぐらい打つ手がなかったですし、まさに願ってもない機会でした。そこから考えると、リメイク版『LA-MULANA』とは3年以上の付き合いになりますが、長く手間をかけただけのバックを得ているとはいえません。人を選ぶタイプのゲームとはいえ、国内外の多くのレビューで高評価をいただけていますから、「良いもの作ったんだからもう少し売れてくれんかね」というのが率直な感想です。現在はオリジナル版の頃からの熱心なファンが一通り買ってくれた感じもして、もう需要を満たしてしまっているのかな、とも思います。そうなると、あとはまだ『LA-MULANA』を知らなかった人が買ってくれることを願うようになるわけですが、そのためにはもっと知名度を上げなければならないと思います。Steam*4でのリリースが決まれば、やれることは全てやったと言えるんですが、Greenlight*5の仕組みがいまいちピンとこないので、「まぁ、リリースが決まったらラッキー」ぐらいに構えてます。趣味でやっていたオリジナル版のときとは違い、今後の人生まで決まってしまうプロジェクトなので毎日神頼み状態ですが、かといってそこで手堅いものしか作らなくなってしまうとわざわざインディーで続ける意味もないのでまだまだ諦めずにあがきたいと思いますね。
*3 Wiiウェア版『LA-MULANA』の話を持ち込んだのは、アメリカの会社NICALiS。『洞窟物語(英題:Cave Story)』の移植、パブリッシングに携わったことで知られる。日本産の同人対戦格闘ゲーム『ヤタガラス(英題:Yata)』をニンテンドー3DSへと移植する予定もある
*4 アメリカのデベロッパValveが展開しているPCゲームのダウンロード販売サービス。同様のサービスの先駆け的存在で、ユーザー数は随一。AAAタイトルからインディーゲームに至るまでラインアップも幅広い
*5 Steam Greenlight。デベロッパがSteam上の専用ページに作品を登録してリリース嘆願の投票を募り、その結果に応じてSteamでのリリースが決定されるという試み。2012年8月に開始された。インディーゲームの受け皿として期待される面もあるが、選定の仕方が不透明なこともあって、誰もが歓迎するシステムにはなっていないのが実情である
Steam公式サイト
http://store.steampowered.com/
『LA-MULANA』に関する大まかな動きは、NIGORO公式の動画「The histoy of La-Mulana」がわかりやすい。デベロッパのノリもこれで把握できるという代物である。また、手前味噌ながらPC版『LA-MULANA』のリリースが決まった際のニュース記事も参考になると思う。
関連記事:
News Pick Up 2012年7月第1週 - PC版『LA-MULANA』がPLAYISMにて世界同時リリース決定 2012/07/06
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/news-pick-up-201271.html#news20120701_lamulana
――Steamでのリリースを求める声は、海外に限らず大きいと思うのですが、これに関して感じていることがあれば教えてください。
楢村 それだけSteamのユーザーが多いということでしょう。コメントなどを見ていると、すでにほかのサービスで購入した人でも「買いたい」と言ってくれたり、投票してくれていたりしてありがたいかぎりです。WiiウェアとPLAYISMでの売上は、こちらでも確認できているんですが、GOGなどそのほかのサービスでの売上は詳しく知りません。ただ、いろんなところで少しずつは売れているようです。ユーザー数が多いSteamでリリースされれば、それだけ『LA-MULANA』を知らない人の目に留まる確率が上がるわけですから、そういった意味ではSteamで売られるとどのくらい数が変わるのかというのには期待しています。
――ユーザー数の圧倒的な多さは、Steamでリリースするメリットのうちの大きなもののひとつですね。
楢村 ただ、Steamで公開できないと成功にならないという一強状態になっているのが気になります。扱うタイトルを決めるはずのGreenlightも仕組みが不透明で、通るかどうかも予想できず、販売の戦略も立てられません。それに販売されているゲームを見ていると、日本の企業が単体で販売しているゲームはほとんどありません*6。日本のゲームがローカライズされて販売されているものはありますが、だいたい海外の企業が配信を行っているようです。現状では日本からSteamへの自力販売はほとんど不可能といえます。成功には必須なのにチャンスはほとんどないという状態がなんとも言えない感じではあります。
*6 欧米の支社ではなく、日本の会社がSteam上でのパブリッシングまで務めているのは、京都に籍をおくキュー・ゲームスの『Pixel Junk Eden』が挙げられるものの、絶望的と言ってもいい状況のようだ
楢村 タイミングで言えば、海外版Wiiウェアの配信をキャンセルするというニュースが流れた直後ぐらいだったと思います。日本でのWiiウェア版『LA-MULANA』リリースから1年近く経っても、海外でのリリースができていなかったので、内部的には結構早い時期から、ほかのハードへの移植に対応できるようにPC版の作業は始めていました。ニュースになったときは、PC版のテストプレイを始めようかというぐらいの段階まで来ていましたし、PLAYISMから声がかかったタイミングもバッチリでした。
*7 PLAYISMは、インディーゲームのローカライズとダウンロード販売を行なっている会社。『LA-MULANA』のローカライズとパブリッシングもPLAYISMである。もともとは海外のインディーゲームをローカライズして日本へ向けて販売していたが、『LA-MULANA』のリリースと合わせて英語版サイトを立ち上げ、現在は日本産のゲームを英語化して販売したりもしている
PLAYISM公式サイト
http://www.playism.jp/
――件のニュースは海外を中心に大きな話題となっていたので、PLAYISM以外の海外のパブリッシャからも声がかかっていたのではないか、と想像しますが……
楢村 リリースキャンセル騒動は、海外の会社と付き合うことの難しさというか、「英語の打ち合わせや英語の契約書に割いてる時間って、ゲーム作ってる時間より多くね?」という疲れを覚えました。その頃、開発が進んでいたPC版は「Steamでリリースしたい」と考えていましたが、Steamとのやりとりを行うにもまた英語と付き合わないといけません。「ウチが協力すればSteamでリリースさせてあげるよ!」という会社もいくつかあったんですが、やはりそれも海外の会社で……。騒動の直後は、顔が見えない異国語をしゃべる仕事相手に臆病になっていた頃で、日本語で話せて海外でリリースしてくれるPLAYISMが理想の相手だと思いました。スタートしたばかりのサービスで知名度が低いことは問題だとも思いましたが、ゲームを預ければ海外の各サービスとの契約を勧めてくれる、というメリットは我々にとって非常に大きかったんです。それにPLAYISMもまだまだ作品数を増やして、海外での知名度を高めようとがんばっているようです。
――Steamでの販売こそまだ実現していませんが、GOGのような類似の海外のダウンロード販売サイトでは、PLAYISM経由ですでに『LA-MULANA』が取り扱われていますね。
楢村 PLAYISMに『LA-MULANA』を預けたからこそ、GOGやDesuraというさまざまなサービスで『LA-MULANA』を提供できるようになっているわけで、可能性を広げたと言う意味でのメリットは大きかったと思っています。これを自分たちの力だけでやろうと思ったら、ゲームを作る時間はなくなっていたでしょう。PLAYISMはクオリティの高いタイトルを集めたかったし、我々は翻訳や英語でのやり取りを任せられるパートナーが欲しかった。お互いに利害が一致したというわけです。『LA-MULANA』のプロジェクト自体は、Wiiウェア版を完成させた時点で終了と言ってもいいぐらいで、そこからは『LA-MULANA』という完成したゲームを使ってどこまで展開できるかというつもりでやっています。なのでPLAYISMには「『LA-MULANA』を利用して、どこまで手を広げられるか実験として利用してください」と伝えました*8。今後、PLAYISMに預けることによってさまざまな海外サービスでも販売できる、という形ができれば、ゲームを出すときはPLAYISMに預ければ安心ってことでゲーム作りに専念できますし。これまで我々が苦労したのはゲーム作りじゃなくて販売するための手間がほとんどでしたから。
*8 PLAYISMは、2013年1月6日限定でPay What You Wantモデル(ユーザーが任意の金額を支払って購入する販売形式)を使った『LA-MULANA』の販売キャンペーンを行った。100円以上の支払いならば好きな価格で購入でき、支払額に応じた枚数のサウンドトラックがボーナス特典として付属するというものである。また、過去にはGroupeesのBulid a Greenlight Bundleにアンロックボーナスとして『LA-MULANA』が登場している。なお、現在はともに終了している
楢村 実はユーザーの意見を取り込んだというつもりはなくて、より多くの意見・批判・不満などを集めて、自分のゲーム作りの方針が間違っていないかを確認したという感じです。オリジナル版『LA-MULANA』は、MSXというレトロパソコンを模したスタイルだったため、操作の不便さなども模していました。加えてリメイク版に着手するまでは、自分の中で「おもしろいゲームはこう作る」みたいな方法論を持っていなかったんです。なのでコンシューマで出すタイミングに合わせて、多くの意見を集めて、そこから自分なりにゲーム作りの方法論を定めていったという感じです。それと「空白期間を避けたかった」のも理由として挙げられます。Flashゲーム開発は「NIGOROの名前を定着させよう、知名度を上げよう」という目的でスタートしたわけですが、ひとたび『LA-MULANA』に着手してしまうと、そこからはFlashゲームの製作が難しくなります。そうなると当然、NIGOROのサイトは1年以上何も更新がない、ということになってしまいます。そこで作っている過程を公開したり、アンケートをとったりすることにしました。「どんなコントローラーに対応してもらいたい?」みたいなものは、アンケート結果からゲームに素直に取り込めたりしましたから、作っている過程を見せながらのスタイルは、できるかぎり今後も続けていきたいです。大企業にはできない方法だと思いますし、何より楽しいんです。それに励みにもなります。
――もとはアマチュア活動に端を発する、NIGOROらしいスタイルですね。昨今、話題を集めているKiskstarter*9やアルファファンディング*10といったものに興味はおありですか。
楢村 ゲームを作っているあいだは表立った活動もリリースも止まってしまうので、Kickstarterのような初期資金が得られる仕組みには興味があります。しかし、法律の問題などもあって日本からの利用は難しいみたいですね。
*9 Kickstarterは、Web上でプロジェクトを発表して、資金を募るというアメリカのクラウドファンディングサービス。プロジェクトに興味を持った人は、任意の金額でそのプロジェクトを支援でき、期限までにプロジェクトの目標額が集まれば、晴れてプロジェクト主へと資金が渡るという仕組み。支援者は支払った額に応じてプロジェクトに関連した報酬(プロジェクトの製品版やベータ版への参加資格、プロジェクト主との食事会など)を得られる。ゲーム以外のプロジェクトも多数存在している
Kickstarter公式サイト
http://www.kickstarter.com/
*10 開発初期にあたるアルファ版のゲームをリリースして、ユーザーに早期購入と早期参加を促すビジネスモデル。かの有名な『Minecraft』が採用していた方式である。早い段階で資金を獲得しつつ、プレイヤーの声を拾ってゲームを改良できるという点は、開発にとって大きなメリットとなりえる。一方で、購入者に対して完成品の質が担保されるわけではないのはデメリットと言えるかもしれない(これは先述のKickstarterも同様)
――BGMを作曲する際に「ゲームのBGMだからこそ気を使っている」という部分はありますか。
楢村 実はあまり深く考えていません。作曲担当は2人いますが、僕自身は「ステージの雰囲気に合わせて作ろう」とか「ゲームの世界観を際立たせよう」とかよりも、作りたいように曲を作っている感じです。これは多分、自分が作曲担当でもあり企画者・ディレクターでもあるからできることだとは思いますけど。むしろ僕は「こういうゲームだからこういう音楽であるべき」と定めるほうが嫌いで、「アクションが激しいステージで静かな曲が流れてもいいじゃない」かと考えるタイプです。反対にもう1人の作曲担当*11は、ゲームの雰囲気や内容にしっかりと合わせた曲を作るタイプなので、結果的に変化が出てバランスが取れているかなとは思います。
*11 サミエル(SAMIERU)氏。プログラマとサウンドエンジニアを兼任している。ちなみに初期の頃からいるNIGOROの中核をなすメンバーは楢村氏とサミエル氏、そしてプログラム担当のduplex氏の3名である
――BGMと言えば、リメイク版『LA-MULANA』のBGMは、オリジナル版のものからかなり手が加えられている印象で、個人的に驚いた点のひとつでした。
楢村 『LA-MULANA』に限っていえば「グラフィックを大幅にリメイクする分、音楽もそれ相応にリメイクしなければならないだろう」と考えました。その過程で、好きなように作っていた……悪く言えば統一感のなかったオリジナル版の楽曲群を、民族楽器を多用するアレンジにして統一感を出そうとしました。また、ドラムやベースといったリズム部分を強調して、ノリのよさを出したりもしています。アクションゲームは知らないうちに体が動いてしまうぐらいがおもしろいと思っているので、プレイヤーのそれを誘うのが目的です。
チップチューン寄りのものを想像していたので、プレイして驚いたのがBGM。私は地上で流れる曲「Mr.Explorer」が特に好き。以下に、その「Mr.Explorer」のbandcampを貼っておく。
続く後編ではインディーゲームについて楢村氏が感じていることや、距離の離れた仲間と開発することの難しさ、NIGOROの今後の活動についてなど、『LA-MULANA』から少し距離を置いたよりマクロな内容に焦点を当てている。
関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html
『LA-MULANA』公式サイト
http://la-mulana.com/
NIGORO公式サイト
http://nigoro.jp/
PLAYISM 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/
GOG 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.gog.com/gamecard/la_mulana
Desura 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.desura.com/games/la-mulana
インタビューに応えていただいたのは、ディレクターの楢村匠(ならむらたくみ)氏。『LA-MULANA』の今、GreenlightにKickstarter、海外でリリースすることの難しさ、そしてファンは特に気になるであろう新作の話も伺った。読み応え十分の内容に仕上がっているので、ぜひとも期待して読んでほしい。
結構な文量となってしまったので、前編と後編の2部構成にしてある。
関連記事:
ファーストインプレッション『LA-MULANA』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/la-mulana.html
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html
はじめに
――自己紹介をお願いします。楢村氏 |
*1 タイトルは『GR3』。ポーズ中にキーボードから「GRADIUS」と入力する隠しコマンドも存在している。なお、NIGOROの前身となるチームの名がGR3 PROJECT。オリジナル版の『LA-MULANA』の開発は5年にも及び、GR3 PROJECTとしての活動期間は8年程度となる
*2 GR3 PROJECT解散時に楢村氏がブログで書いていた文章からも、彼らのポリシー、こだわりといったものを感じられるので一読をオススメしたい
三匹が企む - 振り返ってみよう
http://3hiki.blogspot.jp/2011/06/blog-post_19.html
グラディウスタイプのシューティング『GR3』。画面は『GR3EX』のもの |
オリジナル版の『LA-MULANA』 |
『LA-MULANA』の現状と今後、そしてSteam
――PC版『LA-MULANA』に続き、海外でもWiiウェア版『LA-MULANA』がリリースされ、一旦は一区切りついて落ち着いたのかな、という印象です。現状について率直な感想、感じている手応えといったものについてお教えいただけますか。楢村 NIGOROは、最初からゲームを販売することを目標に立ち上げたチームでした。ただ、最初からゲームを売っていたわけではなくて、スタートから2年ほどは無料のFlashゲームを公開して、そこからFlashゲームの製作の仕事の話をもらったりしていました。もちろん、そのあいだも自分たちで世界に向けてゲームを販売する手段、特にコンシューマ機でリリースする方法はないかと模索していました。そんなところに飛び込んできたのが「『LA-MULANA』をWiiウェアで出さないか」という話です*3。我々としても、そこに飛びつくほかないぐらい打つ手がなかったですし、まさに願ってもない機会でした。そこから考えると、リメイク版『LA-MULANA』とは3年以上の付き合いになりますが、長く手間をかけただけのバックを得ているとはいえません。人を選ぶタイプのゲームとはいえ、国内外の多くのレビューで高評価をいただけていますから、「良いもの作ったんだからもう少し売れてくれんかね」というのが率直な感想です。現在はオリジナル版の頃からの熱心なファンが一通り買ってくれた感じもして、もう需要を満たしてしまっているのかな、とも思います。そうなると、あとはまだ『LA-MULANA』を知らなかった人が買ってくれることを願うようになるわけですが、そのためにはもっと知名度を上げなければならないと思います。Steam*4でのリリースが決まれば、やれることは全てやったと言えるんですが、Greenlight*5の仕組みがいまいちピンとこないので、「まぁ、リリースが決まったらラッキー」ぐらいに構えてます。趣味でやっていたオリジナル版のときとは違い、今後の人生まで決まってしまうプロジェクトなので毎日神頼み状態ですが、かといってそこで手堅いものしか作らなくなってしまうとわざわざインディーで続ける意味もないのでまだまだ諦めずにあがきたいと思いますね。
ジャンプに癖があるものの(水平方向へジャンプすると、ほぼ軌道修正ができない)、 理不尽さは少なく、全体的にやりごたえのあるゲームに仕上がっている |
遺跡探索というフレーバーが、謎解きに説得力のある深みを与えており、 この手のジャンルのなかでもかなり秀でた印象がある |
*4 アメリカのデベロッパValveが展開しているPCゲームのダウンロード販売サービス。同様のサービスの先駆け的存在で、ユーザー数は随一。AAAタイトルからインディーゲームに至るまでラインアップも幅広い
*5 Steam Greenlight。デベロッパがSteam上の専用ページに作品を登録してリリース嘆願の投票を募り、その結果に応じてSteamでのリリースが決定されるという試み。2012年8月に開始された。インディーゲームの受け皿として期待される面もあるが、選定の仕方が不透明なこともあって、誰もが歓迎するシステムにはなっていないのが実情である
Steam公式サイト
http://store.steampowered.com/
『LA-MULANA』に関する大まかな動きは、NIGORO公式の動画「The histoy of La-Mulana」がわかりやすい。デベロッパのノリもこれで把握できるという代物である。また、手前味噌ながらPC版『LA-MULANA』のリリースが決まった際のニュース記事も参考になると思う。
関連記事:
News Pick Up 2012年7月第1週 - PC版『LA-MULANA』がPLAYISMにて世界同時リリース決定 2012/07/06
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/07/news-pick-up-201271.html#news20120701_lamulana
――Steamでのリリースを求める声は、海外に限らず大きいと思うのですが、これに関して感じていることがあれば教えてください。
楢村 それだけSteamのユーザーが多いということでしょう。コメントなどを見ていると、すでにほかのサービスで購入した人でも「買いたい」と言ってくれたり、投票してくれていたりしてありがたいかぎりです。WiiウェアとPLAYISMでの売上は、こちらでも確認できているんですが、GOGなどそのほかのサービスでの売上は詳しく知りません。ただ、いろんなところで少しずつは売れているようです。ユーザー数が多いSteamでリリースされれば、それだけ『LA-MULANA』を知らない人の目に留まる確率が上がるわけですから、そういった意味ではSteamで売られるとどのくらい数が変わるのかというのには期待しています。
――ユーザー数の圧倒的な多さは、Steamでリリースするメリットのうちの大きなもののひとつですね。
楢村 ただ、Steamで公開できないと成功にならないという一強状態になっているのが気になります。扱うタイトルを決めるはずのGreenlightも仕組みが不透明で、通るかどうかも予想できず、販売の戦略も立てられません。それに販売されているゲームを見ていると、日本の企業が単体で販売しているゲームはほとんどありません*6。日本のゲームがローカライズされて販売されているものはありますが、だいたい海外の企業が配信を行っているようです。現状では日本からSteamへの自力販売はほとんど不可能といえます。成功には必須なのにチャンスはほとんどないという状態がなんとも言えない感じではあります。
*6 欧米の支社ではなく、日本の会社がSteam上でのパブリッシングまで務めているのは、京都に籍をおくキュー・ゲームスの『Pixel Junk Eden』が挙げられるものの、絶望的と言ってもいい状況のようだ
PLAYISMとの関係
――フリーゲームからスタートした『LA-MULANA』は、Wiiウェア版を経たのち、改めてPCというプラットフォームに帰ってきた形になります。そこでPC版リリースの経緯についてお訊ねしたいのですが、PLAYISM*7誕生1周年となった2012年5月には同サイトで、『LA-MULANA』の主人公であるルエミーザ・小杉が登場していました。この時点ですでにPLAYISMとのパートナーシップは結ばれていたと思うのですが、彼らからのコンタクトはどのようなタイミングだったのでしょうか。楢村 タイミングで言えば、海外版Wiiウェアの配信をキャンセルするというニュースが流れた直後ぐらいだったと思います。日本でのWiiウェア版『LA-MULANA』リリースから1年近く経っても、海外でのリリースができていなかったので、内部的には結構早い時期から、ほかのハードへの移植に対応できるようにPC版の作業は始めていました。ニュースになったときは、PC版のテストプレイを始めようかというぐらいの段階まで来ていましたし、PLAYISMから声がかかったタイミングもバッチリでした。
*7 PLAYISMは、インディーゲームのローカライズとダウンロード販売を行なっている会社。『LA-MULANA』のローカライズとパブリッシングもPLAYISMである。もともとは海外のインディーゲームをローカライズして日本へ向けて販売していたが、『LA-MULANA』のリリースと合わせて英語版サイトを立ち上げ、現在は日本産のゲームを英語化して販売したりもしている
PLAYISM公式サイト
http://www.playism.jp/
――件のニュースは海外を中心に大きな話題となっていたので、PLAYISM以外の海外のパブリッシャからも声がかかっていたのではないか、と想像しますが……
楢村 リリースキャンセル騒動は、海外の会社と付き合うことの難しさというか、「英語の打ち合わせや英語の契約書に割いてる時間って、ゲーム作ってる時間より多くね?」という疲れを覚えました。その頃、開発が進んでいたPC版は「Steamでリリースしたい」と考えていましたが、Steamとのやりとりを行うにもまた英語と付き合わないといけません。「ウチが協力すればSteamでリリースさせてあげるよ!」という会社もいくつかあったんですが、やはりそれも海外の会社で……。騒動の直後は、顔が見えない異国語をしゃべる仕事相手に臆病になっていた頃で、日本語で話せて海外でリリースしてくれるPLAYISMが理想の相手だと思いました。スタートしたばかりのサービスで知名度が低いことは問題だとも思いましたが、ゲームを預ければ海外の各サービスとの契約を勧めてくれる、というメリットは我々にとって非常に大きかったんです。それにPLAYISMもまだまだ作品数を増やして、海外での知名度を高めようとがんばっているようです。
――Steamでの販売こそまだ実現していませんが、GOGのような類似の海外のダウンロード販売サイトでは、PLAYISM経由ですでに『LA-MULANA』が取り扱われていますね。
楢村 PLAYISMに『LA-MULANA』を預けたからこそ、GOGやDesuraというさまざまなサービスで『LA-MULANA』を提供できるようになっているわけで、可能性を広げたと言う意味でのメリットは大きかったと思っています。これを自分たちの力だけでやろうと思ったら、ゲームを作る時間はなくなっていたでしょう。PLAYISMはクオリティの高いタイトルを集めたかったし、我々は翻訳や英語でのやり取りを任せられるパートナーが欲しかった。お互いに利害が一致したというわけです。『LA-MULANA』のプロジェクト自体は、Wiiウェア版を完成させた時点で終了と言ってもいいぐらいで、そこからは『LA-MULANA』という完成したゲームを使ってどこまで展開できるかというつもりでやっています。なのでPLAYISMには「『LA-MULANA』を利用して、どこまで手を広げられるか実験として利用してください」と伝えました*8。今後、PLAYISMに預けることによってさまざまな海外サービスでも販売できる、という形ができれば、ゲームを出すときはPLAYISMに預ければ安心ってことでゲーム作りに専念できますし。これまで我々が苦労したのはゲーム作りじゃなくて販売するための手間がほとんどでしたから。
*8 PLAYISMは、2013年1月6日限定でPay What You Wantモデル(ユーザーが任意の金額を支払って購入する販売形式)を使った『LA-MULANA』の販売キャンペーンを行った。100円以上の支払いならば好きな価格で購入でき、支払額に応じた枚数のサウンドトラックがボーナス特典として付属するというものである。また、過去にはGroupeesのBulid a Greenlight Bundleにアンロックボーナスとして『LA-MULANA』が登場している。なお、現在はともに終了している
NIGOROの開発姿勢
――『LA-MULANA』のリメイクにあたっては、ユーザーからの声を大きく取り入れた印象が強いのですが、今後もこのような開発方針をとっていくのでしょうか。楢村 実はユーザーの意見を取り込んだというつもりはなくて、より多くの意見・批判・不満などを集めて、自分のゲーム作りの方針が間違っていないかを確認したという感じです。オリジナル版『LA-MULANA』は、MSXというレトロパソコンを模したスタイルだったため、操作の不便さなども模していました。加えてリメイク版に着手するまでは、自分の中で「おもしろいゲームはこう作る」みたいな方法論を持っていなかったんです。なのでコンシューマで出すタイミングに合わせて、多くの意見を集めて、そこから自分なりにゲーム作りの方法論を定めていったという感じです。それと「空白期間を避けたかった」のも理由として挙げられます。Flashゲーム開発は「NIGOROの名前を定着させよう、知名度を上げよう」という目的でスタートしたわけですが、ひとたび『LA-MULANA』に着手してしまうと、そこからはFlashゲームの製作が難しくなります。そうなると当然、NIGOROのサイトは1年以上何も更新がない、ということになってしまいます。そこで作っている過程を公開したり、アンケートをとったりすることにしました。「どんなコントローラーに対応してもらいたい?」みたいなものは、アンケート結果からゲームに素直に取り込めたりしましたから、作っている過程を見せながらのスタイルは、できるかぎり今後も続けていきたいです。大企業にはできない方法だと思いますし、何より楽しいんです。それに励みにもなります。
――もとはアマチュア活動に端を発する、NIGOROらしいスタイルですね。昨今、話題を集めているKiskstarter*9やアルファファンディング*10といったものに興味はおありですか。
楢村 ゲームを作っているあいだは表立った活動もリリースも止まってしまうので、Kickstarterのような初期資金が得られる仕組みには興味があります。しかし、法律の問題などもあって日本からの利用は難しいみたいですね。
*9 Kickstarterは、Web上でプロジェクトを発表して、資金を募るというアメリカのクラウドファンディングサービス。プロジェクトに興味を持った人は、任意の金額でそのプロジェクトを支援でき、期限までにプロジェクトの目標額が集まれば、晴れてプロジェクト主へと資金が渡るという仕組み。支援者は支払った額に応じてプロジェクトに関連した報酬(プロジェクトの製品版やベータ版への参加資格、プロジェクト主との食事会など)を得られる。ゲーム以外のプロジェクトも多数存在している
Kickstarter公式サイト
http://www.kickstarter.com/
*10 開発初期にあたるアルファ版のゲームをリリースして、ユーザーに早期購入と早期参加を促すビジネスモデル。かの有名な『Minecraft』が採用していた方式である。早い段階で資金を獲得しつつ、プレイヤーの声を拾ってゲームを改良できるという点は、開発にとって大きなメリットとなりえる。一方で、購入者に対して完成品の質が担保されるわけではないのはデメリットと言えるかもしれない(これは先述のKickstarterも同様)
――BGMを作曲する際に「ゲームのBGMだからこそ気を使っている」という部分はありますか。
楢村 実はあまり深く考えていません。作曲担当は2人いますが、僕自身は「ステージの雰囲気に合わせて作ろう」とか「ゲームの世界観を際立たせよう」とかよりも、作りたいように曲を作っている感じです。これは多分、自分が作曲担当でもあり企画者・ディレクターでもあるからできることだとは思いますけど。むしろ僕は「こういうゲームだからこういう音楽であるべき」と定めるほうが嫌いで、「アクションが激しいステージで静かな曲が流れてもいいじゃない」かと考えるタイプです。反対にもう1人の作曲担当*11は、ゲームの雰囲気や内容にしっかりと合わせた曲を作るタイプなので、結果的に変化が出てバランスが取れているかなとは思います。
*11 サミエル(SAMIERU)氏。プログラマとサウンドエンジニアを兼任している。ちなみに初期の頃からいるNIGOROの中核をなすメンバーは楢村氏とサミエル氏、そしてプログラム担当のduplex氏の3名である
――BGMと言えば、リメイク版『LA-MULANA』のBGMは、オリジナル版のものからかなり手が加えられている印象で、個人的に驚いた点のひとつでした。
楢村 『LA-MULANA』に限っていえば「グラフィックを大幅にリメイクする分、音楽もそれ相応にリメイクしなければならないだろう」と考えました。その過程で、好きなように作っていた……悪く言えば統一感のなかったオリジナル版の楽曲群を、民族楽器を多用するアレンジにして統一感を出そうとしました。また、ドラムやベースといったリズム部分を強調して、ノリのよさを出したりもしています。アクションゲームは知らないうちに体が動いてしまうぐらいがおもしろいと思っているので、プレイヤーのそれを誘うのが目的です。
チップチューン寄りのものを想像していたので、プレイして驚いたのがBGM。私は地上で流れる曲「Mr.Explorer」が特に好き。以下に、その「Mr.Explorer」のbandcampを貼っておく。
続く後編ではインディーゲームについて楢村氏が感じていることや、距離の離れた仲間と開発することの難しさ、NIGOROの今後の活動についてなど、『LA-MULANA』から少し距離を置いたよりマクロな内容に焦点を当てている。
関連記事:
『LA-MULANA』開発者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2013/01/la-mulana_16.html
『LA-MULANA』公式サイト
http://la-mulana.com/
NIGORO公式サイト
http://nigoro.jp/
PLAYISM 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/
GOG 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.gog.com/gamecard/la_mulana
Desura 『LA-MULANA』のストアページ
http://www.desura.com/games/la-mulana