レビュー『ふしぎの城のヘレン』
Posted on 2012年8月12日日曜日
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やや不作気味に感じた上半期の印象を払拭するかのように、私の前に現れた2012年下半期最初のお気に入りゲームが『ふしぎの城のヘレン』だ。リリースは2011年末ということで、今年のベストゲームと形容しがたいところはあるのだが、ポテンシャルとしては十分で「とにかくおもしろかった」というのが率直な感想。
ほかの人にもぜひプレイしてみてほしいと感じさせるものだった。というわけでレビュー。
なお、あまりに本作が気に入ってしまったので、製作のさつ氏にインタビューを行った。後日、掲載予定である。
2012年8月15日追記
インタビュー記事を掲載しました
関連記事:『ふしぎの城のヘレン』製作者インタビュー
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/08/blog-post_15.html
■開発 さつ
■プラットフォーム Win
■リリース日 2011年12月23日
■価格 無料(フリーソフト)
■入手経路 公式サイト
■公式サイト http://www.geocities.jp/i_to_may/
■プレイ時間 6時間程度(公式サイトによると4時間程度)
『ふしぎの城のヘレン』は、RPGツクール2000(英語版はRPG Maker 2000)で作られたRPG。製作したのは、さつ(チームではなく個人)氏。フリーソフトである。
2ちゃんねる発祥のイベント「VIPRPG紅白2011」に提出された作品のうちの1つで(全77作品が提出されている)、イベント公式サイトの投票の結果、ほとんどの部門で上位に入賞している。また、最優秀作品にいちばん近しいマイベスト部門では1位に選出された。参考までに各部門での成績を記載しておく。
VIPRPG紅白2011 - 投票所 投票結果
http://vipkohaku2011.web.fc2.com/page07_1.html
プレイに際しては、RPGツクール2000 RTP(ランタイムパッケージ)が必要となる。
ファミ通.com - RPGツクール2000 RTP
http://www.famitsu.com/freegame/rtp/2000_rtp.html
フィールド上にいる敵と接触することで戦闘に突入する、シンボルエンカウント方式を採用。戦闘はコマンド選択型で、独自のターン制で進むようになっている。パーティーの概念はなく、戦闘中の操作キャラクターは1名だけである。
また、RPGにつきもののキャラクターのレベルアップは存在しない。キャラクターの能力を強化する方法は主に以下の3点に絞られている。
武器を含むアイテム類は所持しているだけで装備しているものとみなされ、戦闘中に自由に使用することができる。ただし、所持できるアイテムは最大で8つまで。
アイテムのレベルアップは、戦闘で勝利すると得られるEXPを使って行う。アイテムごとにレベルアップに必要なEXPの量が決まっており、メニュー画面からEXPを消費して任意でレベルアップさせる。各アイテムのレベルは「ロングソード+1」や「ウッドシールド+2」のようにアイテム名の後ろにつく数字で表示される。なお、最大レベルは+9である。
『ファイナルファンタジー10』のカウントタイムバトルがイメージ的には近いだろうか。ただし、本作にはキャラクターの素早さのようなパラメータは存在せず、選択したアクションでのみターンは制御される。
上記のようなシステムにより、以下の特徴が浮かび上がってくる。
また、戦闘中のアクションには大きく分けて4つのカテゴリ(剣、弓、魔法、盾)が存在し、それぞれ異なった特性を持っている。
この仕組みによって、相手のアクションに合わせて適切なアクションを選択すれば、かなり大きなアドバンテージが生まれるようになっている。逆に言えば、適当にボタン連打するだけでクリアできるようなゲームではないということだ。
もちろん、「相手のアクションに合わせて」と言っても、ずっと盾で守っているだけでは勝てず、待機時間をうまく調節しなければ、無防備な状態で攻撃を喰らうはめになってしまうので、短期的な戦略ではなく、長期的な戦略が必要となる。ボス戦ともなれば、この傾向はさらに顕著となり、かなりの手応えを感じるだろう。
本作では、タイミング悪く攻撃が外れることはないし、たまたまダメージが少なかったということもない。それどころか運悪く敵が強力な攻撃をしかけてくることすらないのだ。敵の行動は状況に合わせて完全に制御されており、その状況を作り出すのはプレイヤーの選択、そして選択の積み重ねだけなのである。
つまり「運悪く敗北することがない」反面、「運よく勝利することもない」のだ。
無論、ほかのゲームでもそういった側面は存在するのだが、ここまで厳密な作品を私は知らない。本作に求められる緻密な戦略は、一般的なRPGの戦闘におけるそれよりも、敵の行動パターンやパラメータ、行動順などを研究して行うタイムアタックやレベル制限クリアのそれに近いように思う。
また、本作では敵の攻撃を的確に凌がなければ数ターンで死に至るバランスになっている。最大HPを上げることはできるが、それは付け焼刃でしかなく、根本的な解決にはならない。したがって敵の行動をうまく制御し、それに対処していくことが非常に重要だ。
以上の事柄によって、本作は敵を攻略するという楽しさが全面に出たゲームになっている。既存のRPGだと『真・女神転生3 ノクターン』のプレスターンバトルの感覚に似ているかもしれない。各アクションのパラメータに、敵の行動パターン、さらに自身と敵のHP管理。これらの要素に気を配り、しかるべき選択を続けた先にのみ勝利が待っているのだ。
ドット絵のキャラクターがキビキビと動くさまはとても心地よく、なかでも主人公ヘレンの動きは愛らしい。私個人としては長らく2DスタイルのJRPG(と呼ばれるゲームや、それに近しいゲーム)を触っていなかったので、懐かしさのようなものもあるのだろう。しかし、それを差し引いても十分なほどに見ていて、また操作していて楽しい。
フィールドのみならず、戦闘中でもキャラクターたちがよく動き、戦っている感じがよく出ている。SEも非常に効果的に使われていると感じた。
ストーリーは奇をてらったものではないが、極々ありふれたものというわけでもないだろう。ただし、ストーリーの展開、特に終盤は王道的な展開をするので、一部のイベント戦闘を除けば刺激や驚きといった部分への訴求はあまりない。
BGMの使い方やイベントシーンの作りといった演出面はかなり凝っている印象。作り方が粗いと「陳腐」で片付けられてしまう「王道」も、本作はとにかく丁寧で、王道らしい王道としてきっちりと完成されている。なかでもゲーム中盤のあるイベントと、終盤の一連のイベントは素晴らしく、強く印象に残っている。物語を彩るキャラクターたちも個性的で、特に愛嬌のあるキャラクターが多い。
なお、進行は一本道である。ただし、終盤の行動によってエンディングは2つに分岐し、一方がトゥルーエンドと言うべき内容となっている。分岐すると言っても、選択肢の積み重ねで分岐するタイプではないので、両方を観るのはさほど難しくはない。意識していればほとんどの人が難なく両方のエンディングを見られるはずだ。
ゲーム開始時に長ったらしいイベントシーンを挟むことはないし、戦闘の展開も小気味よい。所持アイテムを選別する必要はあるが、お金の概念はなく、ショップで武器を買い集める必要もない。戦闘中に知略を巡らせるときに指は止まりこそすれ、頭の回転は止むことがないだろう。
このため、プレイしていて無駄な時間をほとんど感じさせない。
惜しむらくは、再戦ができない(敗戦すると自動で自宅に戻り、同じ戦闘を繰り返すリトライの項目がない)ことであるが、これがRPGツクール2000の仕様なのか、作者のこだわりなのか(あるいは私が気づいていないだけか)は不明である。
と思ったのだが、F12キーでソフトリセットができる。また、どこでもセーブができるため、リトライもすぐに可能だ。私は先程気づいたばかりだが、これからプレイする人は念頭に入れておくといいだろう。
また、フィールドマップも無駄なく洗練された印象を受ける。
一見、飾りに見えるオブジェクトにも意味があり、ゲームを進めるにつれて、その無駄のなさに驚ろかされるばかりである。
フィールドを行き来する手段もかなり練られており(本作はワールドマップはなく、フィールドマップが何らかの形で接続されている)、退屈な移動時間となってしまう部分を減らす努力が端々から垣間見える。
プレイテンポも無駄のないマップも、ゲームのコアを成す要素ではないし、プレイヤーの印象には決して強くは残らないだろう。しかし、プレイ体験をグッと底上げするのが、そういった部分への気遣いであるのは疑いようのない事実だ。『Super Meat Boy』のリトライ速度、『スーパーマリオワールド』のステージ1のレベルデザインを持ち出すまでもないだろう。
本作は、どこまでも果てしなく気が効いていて、ストレスを感じさせる部分が非常に少ない。これは大きな美点である。
ハードな戦闘とは一点、世界観はかなりゆるりとした雰囲気だ。ドット絵のキャラクターが動く様子は非常に活き活きとしており、ドット絵に対する懐かしさだけでは語り尽くせない愛らしさがある。
イベントシーンは独特のキャラクター設定に加えて、BGMを始めとした演出が素晴らしく、安定して楽しめるものとなっている。特筆すべきは終盤に訪れる怒涛の展開だろう。「誰もが予想だにしなかった結末」とはいかないものの、プレイヤーを心動かし、物語に幕を下ろすには十分な内容となっており必見である。
レベルアップにパーティー編成、それに装備のカスタマイズと肥大化していったRPGたち。それとは別の方向へと舵を切ったRPGが『ふしぎの城のヘレン』だ。圧倒的なボリュームはないが、芯となっているバトルシステムは恐ろしく洗練されており、一切の無駄を感じさせず、プレイは非常に濃密だ。驚くべきことに本作はフリーで楽しめるが、たとえ有料であったとしてもバトル好きならマストプレイのRPGといっても過言ではなかろう。
ほかの人にもぜひプレイしてみてほしいと感じさせるものだった。というわけでレビュー。
なお、あまりに本作が気に入ってしまったので、製作のさつ氏にインタビューを行った。後日、掲載予定である。
2012年8月15日追記
インタビュー記事を掲載しました
関連記事:『ふしぎの城のヘレン』製作者インタビュー
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/08/blog-post_15.html
概要
■ジャンル RPG■開発 さつ
■プラットフォーム Win
■リリース日 2011年12月23日
■価格 無料(フリーソフト)
■入手経路 公式サイト
■公式サイト http://www.geocities.jp/i_to_may/
■プレイ時間 6時間程度(公式サイトによると4時間程度)
『ふしぎの城のヘレン』は、RPGツクール2000(英語版はRPG Maker 2000)で作られたRPG。製作したのは、さつ(チームではなく個人)氏。フリーソフトである。
2ちゃんねる発祥のイベント「VIPRPG紅白2011」に提出された作品のうちの1つで(全77作品が提出されている)、イベント公式サイトの投票の結果、ほとんどの部門で上位に入賞している。また、最優秀作品にいちばん近しいマイベスト部門では1位に選出された。参考までに各部門での成績を記載しておく。
- マイベスト部門:1位
- テクニック部門:2位
- グッドバランス部門 : 1位
- ユーザビリティ部門 : 1位
- シナリオ部門 : 2位
- 雰囲気部門 : 1位
- 演出部門 : 1位
VIPRPG紅白2011 - 投票所 投票結果
http://vipkohaku2011.web.fc2.com/page07_1.html
プレイに際しては、RPGツクール2000 RTP(ランタイムパッケージ)が必要となる。
ファミ通.com - RPGツクール2000 RTP
http://www.famitsu.com/freegame/rtp/2000_rtp.html
ゲーム内容
主人公はエルフの少女ヘレン。これといって理由は明示されないが、家の北にある遺跡を皮切りに、さまざまな場所を冒険をしていくことになる。![]() |
ヘレンは読み書きができず、書物はおろか、看板すらも読むことができない |
また、RPGにつきもののキャラクターのレベルアップは存在しない。キャラクターの能力を強化する方法は主に以下の3点に絞られている。
- HPアップの入手、またはハンバーグを食べることによる最大HP上昇
- よりよい性能のアイテムの入手
- アイテムのレベルアップ
![]() |
HPアップは特定のツボを割ったり、宝箱の中から入手できる |
アイテムのレベルアップは、戦闘で勝利すると得られるEXPを使って行う。アイテムごとにレベルアップに必要なEXPの量が決まっており、メニュー画面からEXPを消費して任意でレベルアップさせる。各アイテムのレベルは「ロングソード+1」や「ウッドシールド+2」のようにアイテム名の後ろにつく数字で表示される。なお、最大レベルは+9である。
![]() |
鍛冶屋でもアイテムをレベルアップできる。この場合、限界を突破しての強化が可能 |
攻略しがいのある戦闘システム
RPGの花形とも言うべき戦闘。『ふしぎの城のヘレン』の戦闘はかなり独特なので、上記のゲーム内容とは別に以下で解説する。- 主人公のヘレンと敵1体とが、1対1で戦う決闘のような方式
- 戦闘中のアクションには「行動まで」、「効果」、「防御」の3つのパラメータが存在。「待機時間」、「攻撃力」、「防御力」と読み替えるとわかりやすいので、以下ではそのように記述する
- アクションを決定すると互いの待機時間が減っていき、いずれかの待機時間が0になると、そのアクションが発動
- 「攻撃側の攻撃力」から「防御側の防御力」を引いた数値が最終的なダメージとなる
- アクションが終わったら次のアクションの選択を行う。待機中のアクションは待機状態を続行する
- ヘレンか敵のHPが0になるまで、3~5を繰り返す
![]() |
画面上方に敵の、画面下方にヘレンの情報が表示される |
上記のようなシステムにより、以下の特徴が浮かび上がってくる。
- 待機時間が短いアクションは一方的に何度も攻撃できる
- 防御力が高いアクションは相手の攻撃力を完全にシャットアウトできる
![]() |
アクション次第で敵の攻撃を完全に防げるのは、本作を攻略するうえで非常に重要 |
カテゴリ
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待機時間
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攻撃力
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防御力
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特性
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剣
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中
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中
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中
| 突出したパラメータがない。 その代わりに中程度のパラメータが並ぶ |
弓
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小
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小
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小
| 待機時間が短く、時間あたりのダメージ効率が高い 剣や盾で簡単に防がれる |
魔法
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大
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大
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なし
| 防御無視の高ダメージ 待機時間が長いうえに防御力皆無で、隙が甚大 |
盾
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中
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なし
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大
| 魔法以外の攻撃をかなり軽減できる 攻撃が一切不可 |
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各カテゴリ間の相関関係はだいたい上記の通り |
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回復魔法も1つだけ存在。長期戦を挑むならあったほうがよいが必須というわけではない |
ランダム要素の排除によって浮かび上がる攻略する楽しさ
『ふしぎの城のヘレン』の最大の特徴が、戦闘におけるランダム要素の排除である。これは運に頼ることのできない、戦略性の高さと言い換えてもいいだろう。本作では、タイミング悪く攻撃が外れることはないし、たまたまダメージが少なかったということもない。それどころか運悪く敵が強力な攻撃をしかけてくることすらないのだ。敵の行動は状況に合わせて完全に制御されており、その状況を作り出すのはプレイヤーの選択、そして選択の積み重ねだけなのである。
つまり「運悪く敗北することがない」反面、「運よく勝利することもない」のだ。
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敵によって使ってくるアクションはさまざま。序盤の敵スケルトンはワンパターン |
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時折、攻撃力の高い攻撃を仕掛けてくるゴブリン。実際は特定の条件のもとで強力な攻撃を使ってくる |
また、本作では敵の攻撃を的確に凌がなければ数ターンで死に至るバランスになっている。最大HPを上げることはできるが、それは付け焼刃でしかなく、根本的な解決にはならない。したがって敵の行動をうまく制御し、それに対処していくことが非常に重要だ。
以上の事柄によって、本作は敵を攻略するという楽しさが全面に出たゲームになっている。既存のRPGだと『真・女神転生3 ノクターン』のプレスターンバトルの感覚に似ているかもしれない。各アクションのパラメータに、敵の行動パターン、さらに自身と敵のHP管理。これらの要素に気を配り、しかるべき選択を続けた先にのみ勝利が待っているのだ。
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不確かな勝利は存在しえず、勝利は確かな手応えを持ってプレイヤーに与えられる |
活き活きと動くドット絵のキャラクターたち
最初に最大の魅力だと感じた戦闘について書いてしまったので、なにやら硬派な内容と受け取ったかもしれないが、作品全体がまとっている雰囲気は穏やかなものである。ドット絵のキャラクターがキビキビと動くさまはとても心地よく、なかでも主人公ヘレンの動きは愛らしい。私個人としては長らく2DスタイルのJRPG(と呼ばれるゲームや、それに近しいゲーム)を触っていなかったので、懐かしさのようなものもあるのだろう。しかし、それを差し引いても十分なほどに見ていて、また操作していて楽しい。
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ウィンドウを開きっぱなしにしていると、ヘレンが決めポーズを取る |
ストーリーは短いながら堅実な作りで、演出面が光る
本作のプレイ時間は4~6時間程度と、RPGのプレイ時間としては極めて短い部類だ。しかし、ストーリーは淡白なものではない。進行に合わせて舞台設定が徐々に明らかになっていき、最初はかなり曖昧だった目的も次第に輪郭を帯びていく。最後まで順当にテンションを上げていき、きっちりとしたタイミングで結末を迎えるので、安定して楽しめる。ストーリーは奇をてらったものではないが、極々ありふれたものというわけでもないだろう。ただし、ストーリーの展開、特に終盤は王道的な展開をするので、一部のイベント戦闘を除けば刺激や驚きといった部分への訴求はあまりない。
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ヘレンが訪れる先はバリエーションに富んでいる。空中庭園っぽいところなどもある |
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謎解きが必要となる場所も存在。ほかにも隠し通路を見つける必要があったりする |
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ヘレンを照れさせるヘンタイのおじさん、こと魔王 登場キャラクターたちがコミカルな色合いが強いのは好き嫌いがわかれるかも知れない |
テンポ、マップデザインと無駄のない作りが飽きさせない
『ふしぎの城のヘレン』はテンポがよい。ゲーム開始時に長ったらしいイベントシーンを挟むことはないし、戦闘の展開も小気味よい。所持アイテムを選別する必要はあるが、お金の概念はなく、ショップで武器を買い集める必要もない。戦闘中に知略を巡らせるときに指は止まりこそすれ、頭の回転は止むことがないだろう。
このため、プレイしていて無駄な時間をほとんど感じさせない。
惜しむらくは、再戦ができない(敗戦すると自動で自宅に戻り、同じ戦闘を繰り返すリトライの項目がない)ことであるが、これがRPGツクール2000の仕様なのか、作者のこだわりなのか(あるいは私が気づいていないだけか)は不明である。
と思ったのだが、F12キーでソフトリセットができる。また、どこでもセーブができるため、リトライもすぐに可能だ。私は先程気づいたばかりだが、これからプレイする人は念頭に入れておくといいだろう。
また、フィールドマップも無駄なく洗練された印象を受ける。
一見、飾りに見えるオブジェクトにも意味があり、ゲームを進めるにつれて、その無駄のなさに驚ろかされるばかりである。
フィールドを行き来する手段もかなり練られており(本作はワールドマップはなく、フィールドマップが何らかの形で接続されている)、退屈な移動時間となってしまう部分を減らす努力が端々から垣間見える。
プレイテンポも無駄のないマップも、ゲームのコアを成す要素ではないし、プレイヤーの印象には決して強くは残らないだろう。しかし、プレイ体験をグッと底上げするのが、そういった部分への気遣いであるのは疑いようのない事実だ。『Super Meat Boy』のリトライ速度、『スーパーマリオワールド』のステージ1のレベルデザインを持ち出すまでもないだろう。
本作は、どこまでも果てしなく気が効いていて、ストレスを感じさせる部分が非常に少ない。これは大きな美点である。
![]() |
捨てたアイテムは倉庫のような場所に自動的に回収され、いつでも自由に持ち出せるのも非常に便利 |
総括
『ふしぎの城のヘレン』は、RPGのバトルの楽しさを凝縮したような作品だ。敵の行動をコントロールし、自身の行動を最適化するというものをベースとしながら、勝利のためには重層的な戦略が必要となるため、バトルの達成感や充実感が極めて高い。ランダムな要素がまったくないことで、理不尽さを感じることもなくなっている。それでいてルールはシンプルで、すぐに把握でき、磨き上げられた宝石や刀剣のような美しさがある。ハードな戦闘とは一点、世界観はかなりゆるりとした雰囲気だ。ドット絵のキャラクターが動く様子は非常に活き活きとしており、ドット絵に対する懐かしさだけでは語り尽くせない愛らしさがある。
イベントシーンは独特のキャラクター設定に加えて、BGMを始めとした演出が素晴らしく、安定して楽しめるものとなっている。特筆すべきは終盤に訪れる怒涛の展開だろう。「誰もが予想だにしなかった結末」とはいかないものの、プレイヤーを心動かし、物語に幕を下ろすには十分な内容となっており必見である。
レベルアップにパーティー編成、それに装備のカスタマイズと肥大化していったRPGたち。それとは別の方向へと舵を切ったRPGが『ふしぎの城のヘレン』だ。圧倒的なボリュームはないが、芯となっているバトルシステムは恐ろしく洗練されており、一切の無駄を感じさせず、プレイは非常に濃密だ。驚くべきことに本作はフリーで楽しめるが、たとえ有料であったとしてもバトル好きならマストプレイのRPGといっても過言ではなかろう。