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『ふしぎの城のヘレン』製作者インタビュー

Posted on 2012年8月15日水曜日 | No Comments

『ふしぎの城のヘレン』があまりにおもしろく、筆者も「良すぎて惚れすぎてどうすればいいかわからなかった」ので、製作のさつ氏に作品についていろいろと伺った。なお、本作に関するさつ氏とポーン氏*1のやりとりも非常に興味深かったので、許可を得て併せて掲載することにする。

*1 『雪道』、『灼熱姫』など、先鋭的なフリーゲームを多数手がけたフリーゲーム作者。フリーゲームサイト「ステッパーズ・ストップ」を運営している。

ステッパーズ・ストップ
http://stst.cocot.jp/

関連記事:レビュー『ふしぎの城のヘレン』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html


はじめに

さつ氏
――はじめに自己紹介をお願いします。
さつ さつと申します。VIPRPGのイベントなどでいくつか作品を公開してきました。一部はサイト(http://www.geocities.jp/i_to_may/)にてダウンロード可能です。

作品の製作にあたって

名の欠けた騎士「アンデッドナイト」もRTP出身
――まずお聞きしたいのは、製作にあたって最初に着想を得るものについてです。最初に出てくるのはシステムですか、ストーリーですか。
さつ 「システムとプロットはよく融和したものを作りたい」って想いがやはりあって、「できればそこにキャラクターも」と思うのですが、アイデアは欲しがれば出てくるというものでもないので、いつも場当たり的です。
――例えば、主人公のヘレンは「文字が読めない」設定ですよね。RPGとしては変わっっていると思うのですが、どういった理由からなんでしょう。
さつ ヘレンのデフォルトの顔グラフィックがあまりにアホっぽくて、かわいいので(笑)
――たしかにちょっとアホっぽいですね(笑) ヘレンに限らず、登場キャラを見ていると、RTPの素材*2にとても愛着があるように感じるのですが、こだわりのようなものがあるのでしょうか?
さつ 私自身ツクール製のゲームをよく遊ぶので、その中で使われていた素材に対しても格別の愛着があります。音楽は自作できないので諦めましたが、「画像は自作かRTPのみで行こう」と決めていました。
――プレイしていて、たくさん動くドット絵がとても印象的でした。苦労したものや思い出深いものなどはありますか?
さつ ドット絵の大半は、ほかのゲームのために作っていてお蔵入りになっていたものなのですが、改めて見返してみるとハーピーのグラフィックがお気に入りです。きれいなので。

*2 RPGツクール200のデフォルト収録素材のこと
さつ氏お気に入りのハーピー

対話:グラフィックに関して

ポーン グラフィックはものすごく凝ってると思いました。
さつ ありがとうございます。
ポーン 後期SFCのゲームの影響があったりするんでしょうか?
さつ どうなんでしょう……凝ったという意識はなくて……。必要になったので描いたという認識が強いですね。
ポーン と言うと?
さつ 最初は敵が棒立ちの一枚絵だったんですが、それだと対戦している感じが出なくて。
ポーン なるほど。
さつ 敵味方フェアなルール下で戦闘するというのは大事だと思ったので、グラフィックに関してもそこは公平に行くことにしました。
ポーン 敵と対等なのはリアリティに関わりますもんね。

イベントシーンで意識したこと

――中盤のとある事情が明らかになるところと、ラストの熱い展開など、魅力的なイベントシーンが多かったです。イベントシーンなどで気を配った部分を教えてください。
さつ 「プレイヤーが選ぶ」ということだけは極力心がけるようにしました。テンションの高い展開も、プレイヤーが置きざりになってしまうと、それだけ温度差が広がってしまうんですよね。なので一本道ではあるけれど、行動だけはプレイヤーの操作に委ねられるようにしました。
――プレイヤーの意志と聞くと、2種類のエンディング分岐を思い出しますね。クレジットの短いほうのエンディングは『洞窟物語*3のそれに似ていますが、『洞窟物語』を意識してあのような形になったのでしょうか。
ゲーム中のシーンで筆者が知っている元ネタはこれだけ
さつ 『洞窟物語』は私の大好きなフリーゲームのひとつで、あのエンド分岐の仕掛けはその中でも印象的でした。話の流れでは、ほとんどのプレイヤーがバッドの選択肢を選ばないと思うんです。でも、その選択肢があるおかげで、プレイヤーは「もう一方の選択肢を選んだ!」って思えるんですよね。オマージュというより、単純に良いデザインだと思って、マネしちゃいました。
――なるほど。ほかにもオマージュのようなものはありますか?
さつ ザック*4の一連のセリフにだけは、本当に知る人ぞ知る元ネタがあります。

*3 日本のフリーゲームのなかでも、最大級の知名度を誇る2Dアクションゲーム作品。ニンテンドーDSに移植された(現在は配信停止)。その人気は日本だけにはとどまらず、海外では『Cave Story』として知られている。
*4 まったくの余談だが、勇者ザックの「クーゲルシュライバー(Kugelschreiber)」(他作品ではほかのキャラも使っているようだ)は、ドイツ語で「ボールペン」を意味する単語。ドイツ語にするとなんとなくカッコイイ単語として有名である

ゲームデザインに秘められた意図

――序盤に2つあるうちの片方しか中身が入手できない宝箱という仕掛けがあります*5。あれはどういった意図でそうなったのでしょうか。
さつ 結果的にはそれほどでもなかったのですが、両方のシナジー(組み合わせ)が強力だな、と感じたからですね。宝箱の中身はどちらも強くて明確な答えはないのですが、あの段階で「このゲームではどういうものが強いんだろう?」と考えてみてほしかったんです。あと(この仕掛けがある)2つめのエリアには、もうひとつ狙いがあって。「ウイングガード」と「ウッドシールド」という2つの盾、それにそこまでで手に入る3つの剣をそれぞれ比較させて、どう強いのか学んでもらうという意図がありました。
――ちなみに自分のファーストプレイを仮定した場合、あの宝箱はどちらを入手すると思いますか。
さつ 私はパワーバングルを取ったかなと思います。あの時点では軽い(行動までの時間が短い)武器は強いと思わせる仕掛けがあって、パワーバングルは軽い武器ほど恩恵が大きいからです。


*5 『ファイナルファンタジー5』のチキンナイフとブレイブブレイドの関係に似ている

問題の宝箱がある場所。どうやってもどちらか片方しか入手できない



対話:製作のうえで気にかけている部分

ポーン 見落とされがちなんだけど、ウェイト(Wait)は大きな問題ではないかと。ウェイトさえなければいろんなゲームの快適さが段違いになるのに、と思っているのですが、その点、ヘレンは開幕速攻で動かせてもらえて、ここでセンスのよさを期待できました。スクショ、ヘレンという主人公の選抜、ダッシュアニメ、ツボ破壊など、開始してすぐで魅せる要素がたくさん詰まってるんですよね。感動しつつ、引きとしてとても正しいなと思ったのですが、製作に際してはこういうユーザ体験も意識してたんでしょうか?
さつ 導入には凄く気を使いました。
ポーン おお、やはり。
さつ やっぱりフリーゲームは序盤で投げやすすぎますからね。
ポーン ゲームを始めて「どうしてこのゲームは『なにがどう最高なのか』を、開始してすぐにわかるようにしないんだろう」とかは思いますね。できれば開始する前からわかるといいんですけど。
さつ なるほどー。
ポーン ヘレンの最初では、素朴な小屋とか一匹だけいる羊とかもうれしかったです。
さつ 最初って特に重要で。ゲームを理解してもらう、ってところから始めなくちゃいけない。
ポーン 最初が一番通る確率が高いですからね。
さつ ×を押すと走る、ツボを押すと割れるみたいなリアクションが返ってくると「マップ画面ではこういう行動をすればいいんだなー」とわかってもらえるかなぁと。
ポーン とても正しいと思います。
さつ そういう狙いがあって、そこに力を入れました。ゴーレム倒すあたりまでは丸々チュートリアルのつもりでした。
ポーン サンダーが揃うあたりまでですね。露骨にチュートリアルの顔をしないチュートリアルはいいですよね。
さつ チュートリアルで「○○をやるんだ!」というのが苦手なので(笑)
ポーン ぼくも苦手です。
さつ やる方としても覚えることが多そうで、身構えてしまいますし。
ポーン チュートリアルは、究極的にはないのがいちばんですよね。
さつ そうですね。直感的に理解できるのがいちばん。
ポーン ドアノブみたいに見ただけで分かるように。
さつ マリオなら右に進めばいい、とわかるように。触ってるうちに覚えるあたりが具合のいいところかなと思います。
ポーン マリオ、初期ドラクエもそのへんが考えられてますね。
さつ そうですねー。「やれ」とは決して言わない。
ポーン ボタンや説明が少なかったりするのは、とても大事ですね。世の中、説明をこと細かにするのが親切だと思ってるようなものは多いように思います。
さつ 作る方も、導入は一気にやってしまいたいので、ついついパパッとやりたくなってしまいます。なので、考えたことは最初の階層が一番多いです。

独特の戦闘システムが生まれた背景

――ランダム要素が介在しない戦闘システムにはかなり驚かされました。あのシステムが生まれた背景には何があるのでしょうか。
さつ やっぱりランダム要素が苦手だった、というのがいちばんの理由だと思います。自分が苦手なのものをリストアップしてみると、プレイヤーの意思決定のあとに運要素が来ているものが多かったんですね。例えばシミュレーションの命中率みたいなものって、最終的には乱数に任せるしかなくなってしまう。なのでそういうのはやめようと思いました。一方でおもしろい「対戦ゲーム」というのを色々調べてみたんですが、将棋とかチェスとか、競技性の高いゲームは運要素が排除されているな、と感じたんです。ランダム要素がない以上、対戦相手の思考だけが不確定要素になっていて、それを読んでいくのが楽しいのかな、と。そんな感じで、まあ、ああいうものができました。私は将棋が弱いので未だに結論は出せていませんが。
――システムの作成にあたって影響を受けた作品はありますか。
さつ 影響を受けたというわけではありませんが、ヘレンのシステムを面白いと感じた方は、テンションさん作の『リリアが為に剣が要る』も楽しめるのではないかなー、と思います。

対話:戦闘のデザイン、そしてバランス

ポーン お聞きしたいことがいろいろあったような。
さつ はい。
ポーン あのシステムはどんな風に出来たんだろう、とかですね。頭で考えたのか、自然とこう、浮かんでくるのか、って。バランスもすごくよくできてて、数値の調整は理論的にやったのかとか、本能と手探りでやったのかとか。
さつ 戦闘システムについては、一応前身になるゲームはあったんですよ。
ポーン 2作出てたのは知っています。
さつ 『愛はさだめ、さだめは死』*6っていうやつで、それでは剣客小説の攻防シーンみたいなのをゲームにできないかなというところから考えました。
ポーン 剣客小説ですか。知らないジャンルだ。
さつ システム的な着想はフレーバーから先立って考えることが多いです。
ポーン ヘレンという人物が先だったりしたとか?
さつ ヘレンの場合は、『愛はさだめ』の戦闘システムを洗練したものを出したいなー、というところから作りました。
ポーン 剣から弓、魔法まで使いこなすのがまたエルフにぴったりで、あの人物とあのシステムとどっちが欠けてもあのきれいさにはならないのですよね。そういうのを見ると、どこから決めたんだろうと不思議になります。システムが先でしたか。
さつ 武器の種別は、まず3すくみにしようと考えていて
ポーン 3すくみなのに、じゃんけんにならないところがおもしろかったです。あ、3すくみじゃないか、最終形は。
さつ 軽い攻撃なら弾きながら攻撃可能(剣)、無防備な相手なら連射できる(弓)、遅いけれど発動すれば強力(魔法)という特徴を先に設定して、あとから剣や弓という種別をそこに当てはめていきました。
ポーン なるほど。
さつ 構想中に盾が入ってきたので、3すくみにはなりませんでしたが。
ポーン 盾はよかったですね。ダメージが0になる防御ってそのまま実装すると破綻するのに、武器を切り替えて一時的に防御を上げることで、タイミングがよければ完全防御も可能なんですよね。自分の思考が力としてゲームに反映される感じがしてよかったです。スライム相手に「カツン!」とダメージをカットできたときに「防御がこんなに気持ちいいものか」と思いました。
さつ 個人的に回復魔法が嫌いなので、戦術で消耗を抑えるというのは毎回重視していますね。
ポーン 回復魔法はたしかにたるみますね。
さつ 結果的には回復魔法が重要になってしまいましたが。
ポーン そうですね、ヘレンのヒールは強かったですね。ぼくも別のゲームで、回復手段はそのまま使わせると戦闘が終わらなくなってしまったりするので、強い制限を加えてました。
さつ 回復魔法が使いやすすぎると、ボス戦が「長いだけの戦闘」になってしまうのがどうも苦手で。それで苦戦している感は味わえるんですが……。
ポーン たしかに長いだけのボス戦というのは、ありがちで見落とされてる問題ですね。
さつ 短いほうがトライ&エラーもやりやすくて楽しいと思うんです。
ポーン そうですね。そういった見落とされてる問題に気づけるのは、センスの問題だと思います。ヘレンには端々からセンスを感じました。
さつ ありがとうございます。魔王だけは意識してヒールゲーにしちゃいました。
ポーン ぼくはほとんどをヒールで乗り切ってたんですが、魔王以外はヒールなしで結構いけるということなのかな。
さつ 終盤のボス戦は、「長期化を受け付けない」デザインにしました。

*6 さつ氏製作のフリーゲーム。『ふしぎの城のヘレン』の前に出た作品。

敵のデザインとその製作過程

――全体を通して、敵キャラクターたちの特色が強く出ていると感じましたが、戦闘中の敵の行動は待機時間とヘレンの行動で決まるのでしょうか。
さつ ヘレンの行動を見て対応する敵もいれば、自分の戦術を確立している敵もいます。例えば回復で耐えて、攻撃を強化してから戦うとかですね。それと共通して、敵の戦術には欠陥を1つずつ設定するようにしました。同じ敵には同じ戦闘が再現できてしまい、無難に戦って無難に勝てるようでは飽きてしまうので。戦闘を重ねてプレイヤーが最適解を出すのを楽しんでほしかったからです。
――本作の感想を見てみると、プレイヤーによって苦戦するボスが違うような印象を受けます。私の場合は、二刀流のボスがいちばん手強く感じました。意図的に必要以上に弱くした敵、あるいは強くした敵というのはいますか。
さつ ほとんどのボスキャラは、私やテストプレイヤーさんのプレイスタイルを参考にしてそれを狙い撃ちにする意図でデザインされました。回復でダラダラ戦うプレイヤーがいたので、長引くと強化される攻撃が出てきて不利になるとか、セコくセコく削っていくプレイヤーがいたので、情報を参照できない敵が出るとか……。一辺倒の戦い方で勝ち抜けるのは飽きちゃうだろうな、と思ったからです。特定のボスに苦戦した人はその型にはまってしまったんだと思います。
――強すぎるなどの理由で削った敵などはありますか。
さつ 敵ではありませんが、攻撃力が小さくて防御力が高い「殴れる盾」は、はじめはプレイヤーが使えたんですが、雑魚的に対して鈍い強さを発揮していてつまらなくなってしまうため、削りました。ちなみに敵側にはその「殴れる盾」みたいな攻撃を使う敵が残っていて、かなり終盤に出てきます。

対話:ボスキャラのデザイン

魔王城四天王の一角「痺れのパライソ」
筆者は四天王だと「暗闇のブランド」がいちばん好き
さつ フェアな戦闘をベースとしてるので、暗闇とか毒みたいなルール破りが出てくるほうが面白いかなと。
ポーン 暗闇や毒は、四天王戦で「1ボスひとつの特殊能力」として割り当てたのがとてもバランスいいなと思いました。普通のRPGでは単に不快な障害である毒も、ボスという形にして目の前に出されると、「よし、立ち向かって倒すぞ」ってなって、自発的な気分で向き合える。
さつ 四天王はコンセプトが明確に作れたかなと、自分でも気に入ってます(笑)
ポーン 暗闇が楽しかったです。情報のありがたみを痛感しました。どうしようもない、適当に行動するしかないように見えて、考えればちゃんと攻略できるところもよかった
さつ 「運ゲー」もやはり避けたかったですからー。

『ふしぎの城のヘレン』のプレイヤーについて

――プレイヤーからのフィードバックや感想などで驚いたものはありますか?
さつ 制限プレイなどもありましたが、いちばんは『戦いの果てのヘレン』*7かな。製作中「対人もできないかな」というのは思っていて、実際に対人戦というコンセプトで作った敵もいるんです。なのでこうして手動ゲームとして成立したのはやっぱり衝撃でした。悲願でもあります。
――新作の予定はありますか? あればいつごろプレイできそうかも教えてください。
さつ 予定はあるのですが、いつごろになるかは全くわかりません。

*7 『ふしぎの城のヘレン』の戦闘システムをベースにした手動ゲーム、並びにそれを元にした一連のイベント。キャラクターを作成してパラメータを割り振り、スキル、行動ロジックを決めて戦う。イベントの主催は、ステッパーズ・ストップのポーン氏。特別参戦という形でさつ氏自身も参加している。詳細は公式サイト参照のこと。また、『ふしぎの城のヘレン』と『戦いの果てのヘレン』について熱く語っている「あとがき」はぜひ読んでほしい。

ステッパーズ・ストップ「意識録 - イベント - 戦いの果てのヘレン」
http://stst.cocot.jp/other/event_xhelen.html
ステッパーズ・ストップ「戦いの果てのヘレン あとがき」
http://stst.cocot.jp/other/event_xhelen/after.txt

――プレイヤー、あるいは未プレイの方へ一言お願いします。
さつ あらゆるフィードバックは糧になります。たくさんの糧をありがとうございました。

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