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レビュー『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』

Posted on 2012年7月28日土曜日 | No Comments

レーザーカッターでぶった斬った岩を、ワイヤーで引きずり下ろす。

『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』はそんな豪快な一面を持ったゲームだ。デモ版プレイ時から期待していた作品のひとつで、ひと通りのプレイが終わったので紹介したい。

※開発のご好意により、レビュー執筆用のプロダクトキーをいただいて本作をプレイしている。当然、本レビューもそのプレイを元に構成している。私自身は普段どおりに書いたつもりだが(そもそも嘘を書くのは読者だけではなく、開発や作品に対しても失礼だろう)、一応はその点を踏まえたうえで読んでほしい。

概要

■ジャンル 三人称視点アクションアドベンチャー
■開発 Black Pants Game Studio
■プラットフォーム Win / Mac / Linux
■リリース日 2012年6月20日
■価格 $12.99(価格は公式サイトのもの。これは各種特典が付く。Steamなどでは$9.99)
■入手経路 公式サイト、Steam、GOG.com、GamersGate
■公式サイト http://www.tinyandbig.com/
■プレイ時間 5時間程度(クリアまでは3時間くらい)

開発を手がけるのはドイツ カッセルのデベロッパ、Black Pants Game Studio。同チームはカッセル大学のメンバーを中心に集まった6名からなる小規模デベロッパで、本作は独自開発のScape Engineで開発されている。

リテール版のパッケージ画
Scape Engineは2002年から使われているという年季の入ったエンジン。MOD DBによると *1 、Win / Mac / Linuxに対応するほか、(旧)Xboxにも対応している(いた)ようだ。スクリーンショットを見ると、本作のようなグラフィックスタイルに特化しているというわけでもなさそうであるが、詳細は不明。

*1 MOD DB「Scape Engine」
http://www.moddb.com/engines/scape

BGMは特定のアーティストよるものではなく、異なる12のインディーアーティストを採用するという、変わった形式。全部で18曲が収録されている。

IGF 2011のStudent Showcase Finalist、IGF 2012のTechnical Excellence部門選外佳作(Honourable Mention)選出を筆頭に、さまざまなイベントで各種賞を受賞をしており、個人的にかなり期待値の大きかった作品だ。

エピソード0として『Tiny and Big: Up That Mountain』という作品が前もってリリースされており、現在も公式サイトでダウンロード可能。1レベルのみの収録となっているが、本作の持つエッセンスは十分に感じられる。エピソード1の『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』もデモ版のリリースの予定があるとのこと。

なお、ドイツのAmazon(Amazon.de)だと、リテール版も販売されている。

ゲーム内容

主人公はハイテクマニア(technophile)のTiny。祖父が残した唯一の遺産(と言っても単なる白いパンツ)を取り戻さんと、自身のハイテクデバイスを駆使して宿敵Bigに立ち向かう、というかなり突飛なストーリーだ。
名前とは異なり、Bigより大柄な主人公のTiny
Bigは盗んだパンツを常に頭にかぶっているというクレイジーなキャラクター
一部だけ自動で会話が進む場面が一部存在する
ただ、会話を理解しなくてもゲームを進める分には支障はない
Tinyの使うデバイスはRay Cutter、Sticky Claw、Rocketの3つ。
  1. Ray Cutter:レーザーカッター。オブジェクトを切断する、本作の要とも言うべきデバイス
  2. Sticky Claw:スティッキークロー。ワイヤーの先端に爪がついており、オブジェクトを掴んで引っ張れる
  3. Rocket:手製ロケット。撃ち込んでからジェット噴射することで、オブジェクトを押せる
ロケットはRBを押している間ジェット噴射を行う
私はクリアまでRBを押し続けることに気づかず、あまり使わなかった
これらのデバイスを使いながら、ステージ上を駆けずり回ってBigを追跡し、祖父の偉大なる遺産(= パンツ)を奪還するのが本作の目的。画面や装備品からはTPSっぽいアクションアドベンチャーといった印象を受けるが、本質的にはパズル要素強めの3Dプラットフォーマーというのが適切だろう。敵は存在せず、ヘルスの概念もない。

オブジェクトによって圧死したり、落下死した場合は、(通過時に自動セーブされる)チェックポイントから再開となる。レベルは全部で7つあり、最初のレベルは完全なチュートリアルレベルとなっている。

アクション性はあまり高くなく、タイミング勝負になるようなシーンも極めて少ない。操作はマウスとキーボードのほか、Xbox 360コントローラに標準対応。本レビューはXbox 360コントローラでのプレイを元に執筆している。

ぶった斬れ、押せ、引っ張れ。そして進め

『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』最大の持ち味が、レーザーカッターを使ったアクションパズルだ。

レーザーカッターを使うときはLTを引いたままにして照準を固定し、右スティックで切断範囲を指定する。その状態でLTを離すとレーザーが照射されて、対象のオブジェクトを切断できる。対象を完全に切断できるときは、オブジェクトの縁が青くなり、見た目にもわかりやすくてよい。
右スティックの上下で角度調整、左右で切断範囲を調整する
切断されたオブジェクトや固定されていないオブジェクトは、スティッキークローを使って綱引きの要領で引っ張ったり、ロケットやTiny自身の力で押したりできる(名前はTinyだが、力はTitan並だ)。
自身の数倍はあろうかという巨石も難なく押せるTinyの怪力
スティッキークローはその場でワイヤーを引き戻すことができない。引っ張るときはある程度の空間を確保しよう
これらのアクションを組み合わせることで、柱を倒して橋代わりにしたり、動かした巨大なブロックを足場にして高所に登ったりということを可能にしている。これが本作をプレイするうえでの肝だ。もちろん、レーザーカッターで斜めに大きくカッティングし、坂道を創りだして登ることだってできる。
倒した柱を橋として使うのは常套手段。倒れてくる柱に潰されないように
このゲームメカニックは純粋に楽しいのだが、それをより一層際立たせている要素があるので言及しておく。

まず、かなり大きな、いや巨大なオブジェクトでも切断できる点。これが素晴らしい。

これによってステージがダイナミックに変動し、ほかのゲームでは味わえないプレイ感覚を生み出している。「切る」、「切断する」よりも「ぶった斬る」という言葉を使いたい理由がこれである。ただし、本作は爽快感が魅力となるゲームではないので、プレイ前にその点を理解しておかないと肩透かしをくらってしまうだろう。
レーザーカッターにかかれば、こんな大きな石門でも一気に真っ二つ
第2にプレイヤーの自由が保証されていること。先の点と重複するが、切断できないオブジェクトがほとんどなく、思ったようにアクションできるというのが心地よい。プレイヤーの抱く「これを切ってみよう」はほとんど裏切られることがないため、自身の思い描くまま自由に攻略手順を見つけることができる。

無論、実際にはパズルの解法はある程度決まっている。しかし、ゲーム側はそれをあまり押し付けてこないし、カッティング自体は完全に自由な角度、範囲で行えるため、プレイヤーの意志で世界に干渉しているという感覚が非常に大きいのだ。そういった意味では、自身で望みの解法を見つけ出すサンドボックス型のゲームに近いかもしれない。

ゲームメカニックの活きるロケーション作りは秀逸

ロケーションに関するいくつかの事柄は、高く評価したい。

エピソード0(デモ版)では、ボリューム自体が少ないのでバリエーションに乏しく単調という印象だったのだが、製品版ではこの印象が払拭されており、いい意味で驚かされた。

本作の主だった舞台は砂漠にある古代遺跡だ。遺跡は人が作ったにしては大きめな造りとなっていて、巨大な柱や彫像といったものをよく見かける。特に中盤のレベルでは建造物の大きさに加えて、強い傾斜のある場所や斜め上方向へと登っていくシーンが随所に盛り込まれており、さらにそのスケールを強く感じさせることに成功している。

中盤で訪れる謎の巨大遺跡。外観は独特の雰囲気を放っており、非常によい
レベルごとのコンセプトが明確な点もよい。デモ版では変化に乏しかったビジュアルも、砂漠の遺跡という共通項を持たせつつ、きっちりと変化が見られるようになっている。

また、ゲームメカニック的によじ登っていく場面が多くなってしまうことも、開発はちゃんと把握しているようで、プレイヤーを飽きさせないためのいくつかの工夫が施されている。垂直方向の移動一辺倒にならないように水平方向のパズル要素を設けたり、登るだけではなく遺跡内部へと降りていくといったシチュエーションも用意してあるといった具合だ。
遺跡へと続く道が古いためにところどころ崩れているのも説得力があり、ゲームメカニックとうまく噛み合っている
終盤に訪れる遺跡内部。ビジュアルの変化のみならず、
そこまでの頂上へと登るプレイから、最下層へと降りるプレイに見事にシフトさせている
とりわけインディーゲームはゲームメカニック偏重になりがちだと個人的に思っている。しかし、本作においては、ゲームメカニックの魅力を引き出すロケーション設定、飽きを防止するレベルデザイン(変化の付け方)の双方がかなり秀でていると感じた。

奇抜な設定が活かされた演出

複数の自作デバイスを操る主人公のTinyとは打って変わって、宿敵のBigはテレキネシスで岩石を放り投げたり、ほとんど浮遊して移動するなど、現実離れした設定がなされている。

しかしながら、ストーリーそのものがかなり風変わりであることも影響してか、その設定自体に不自然さはあまり感じない。むしろ飛んできた巨石をレーザーカッターで両断して回避したり、次々と高所へと逃げまわるBigを追わなければならなかったりといったように、プレイヤーに体験させたいシーンを自然と作り出せていると思う。
柱の上を自由自在に飛び回るBig
と言っても常時動いているわけではないのでアクションゲームとしての毛色は薄い
LTを引いている間は、照準の合っているオブジェクトの時間が停止する
落ち着いて操作するための気遣いだ
また、ずいぶんと遅れた紹介になってしまうが、本作ではマンガ的な表現がされているのも特徴だ。スクリーンショットからトゥーンレンダリングが用いられているのは一目瞭然だろう。さらに最たるものが効果音が可視化されている点である。

レーザーでオブジェクトを切断するとき、オブジェクトが音を立てて地面に落下したときなどに効果音とともに、音が文字となって表示される。例を挙げると、レーザーがオブジェクトに当たるときに「FIZZLE!」、スティッキークローがオブジェクトを掴んだときに「POK!」、轟音とともにオブジェクトが落下したときに「GENASH!」などの文字が飛び出る。
効果音の可視化はこんな感じ。おかげでアクションの手触りが一回りよくなっている
これがコミカルな世界観とダイナミックなゲームプレイにマッチしており、画面が寂しくなりがちなパズルアクションの性質をうまく補なっている。

せっかくだからカットシーンもコミック風のコマ割りっぽい演出を入れるなどしたほうがおもしろいと思うのだが、そこまでは手が回らなかったようだ。Bigのアクションもコマ割りから飛び出すような演出と組み合わせれば、さらに魅力的なシーンづくりをできたはず。全体の感触がよいだけに非常にもったいないと感じた。
こんな風にコマ割りすれば、それだけで統一感も生まれてよさそうな気がするのだが
(写真は私が画面写真を編集して作成したもの。雑で申し訳ない)

リプレイを促すコレクション要素は練り込み不足

本作ではリプレイを推奨する要素がいくつか存在している。
  • カセットテープ:ステージ上のカセットテープを入手することでBGMを増やせる
  • 石ころ(Boring Stone):単なるコレクション。集めるだけの存在
  • アーケードマシン:各レベルに1つ存在。専用の短いレベル(アクティビティ)をプレイできる
  • ステージ成績:レーザーの使用回数、死亡回数、クリアタイムなどが記録されランキング化される
とコンテンツ自体は充実しているのだが、残念ながらこれらはうまく機能しているとは言いがたい。
カセットテープ(BGM)の収集状況は、ポーズメニューのPOSSESSIONSから確認可能
コレクション要素は死んでリトライした場合、取り直しになってしまうことが大きな問題。すなわち行きも帰りも失敗せずに取らねばならず、仮に入手に成功したとしても、次のチェックポイントまでに死んでしまえばやり直しとなってしまうのだ。特に石ころは進むべき方法を示す、マリオにおけるコインのような役目も果たしているのだが、集めることによるメリットがなく、必要性をあまり感じなかった。

恐らくステージクリア時の成績とコレクションとを絡めた弊害だと思う。しかしながら、これらはステージ成績とは独立させたほうがよかったし、そうでなくとも取り直しが必要となるシステムは避けるべきだった。開発者としてはいろいろな場所に足を運んでもらいたいという想いが強いのだとは察するが、プレイヤーがコレクションする必要性を感じなければ本末転倒である。

なお、コレクションの隠し場所は、ほとんどが道中と脇道で入手できる反面、かなり難易度が高めなものが少なからず存在している。

ゲーム側でそこに至る道筋をフォローしていないのは個人的にはあまり好きではないけれども、ユーザーによる攻略情報が充実してくればさして問題ではない、という考え方もできるだろう。ただし、それはあくまでゲーム自体が盛り上がった場合のことなので、状況によっては開発側から情報を開示していく(開発のブログにヒントを載せるなど)姿勢が求められる。

カセットテープは『Grand Theft Auto』や『Saints Row』などでお馴染みのシステムで、悪くはないが、よくもないといった印象。楽曲自体は個人的に悪くないと感じるし、任意のタイミングで好きな曲を聴くこともできる。その一方でBGMを使った演出がスポイルされてしまったかな、という印象が拭えない。

開発者にはこだわりをもってシーンに合わせた曲を選択してほしいというのが個人的な願いだ。
ステージ上には開発者を模した、
古代の神々のオブジェクトが隠されており、実績にも絡んでいる 

総括

『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』はありふれた3Dプラットフォーマーを文字通り一刀両断する、インディーゲームらしい意欲的な作品だ。

エキセントリックなストーリーとキャラクター設定は人を選ぶかもしれないが、ダイナミックなパズルアクションは眼を見張るべき出来栄えである。岩を切り出し、足場を作るのはなにも古代人だけではないのだ。Tinyが手にしたレーザーカッターとスティッキークロー、それにロケット、そしてなによりもプレイヤーの想像力(創造力と言ってもいいだろう)が、パズルの解法を創りだしていくプレイフィールは特筆に値する。

コレクション要素はやや退屈ながらも、レベルデザインやコミカルな演出といった部分は秀でており、プレイヤーを飽きさせない工夫もちゃんとある。特にロケーションは魅力的で見せ方も申し分ない。

奇抜な世界観に尻込みする必要はない。そのような不安はレーザーカッターが切り落とし、ロケットが遥か彼方に吹き飛ばしてくれるだろう。爽快感を得るようなゲームではないが、サンドボックスのような創造力を刺激するゲームを求めるなら、『Tiny and Big: Grandpa's Leftovers』はうってつけのタイトルと言える。

2012年8月5日追記
上記、総括部分の英語バージョンを追加した。

Overall

“Tiny and Big: Grandpa's Leftovers” is an ambitious work as indiegames which slashes cliche 3D platformers.

Someone like the eccentric story and character settings the other don’t like. However it is exquisitely-executed that this dynamic puzzled action game. Cutting rocks, making platforms, not only ancients but you also do so. It deserve special consideration that you feel unique game play by solving puzzles when you use your imagination through Tiny’s laser cutters, sticky claws and rockets.

Although collecting is somehow boredom, it is pretty good in terms of level design and comical descriptions. So it is designed not to bore players. Especially, the game settings are amazing, staging perfect!

Don’t hesitate to eccentric world view. Tiny’s laser cutter slashes off the worries, the rocket lauded with anxiety launches space off! The game play is not so brisk, but if you want to be tickled the imagination like good sandbox games, you must play “Tiny and Big: Grandpa's Leftovers”.

Translated by(英訳したのはこの人)
死に舞
@shinimai

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