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『BREAKS』コミケ83直前インタビュー

Posted on 2012年12月25日火曜日 | No Comments

センス・オブ・ワンダー・ナイト 2012、東京ロケテゲームショウと情報を追い続けていた『BREAKS』の開発者にインタビューをすることができた。

開発に至った経緯や、コミックマーケット83で頒布予定のテクニカルプレビュー版の話も詰め込んでもらって、『BREAKS』に対する期待が膨らむばかりだったインタビューをお届けしたい。

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はじめに

なんも氏
――『BREAKS』とご自身について簡単に紹介をお願いします。
なんも FullPowerSideAttack.com代表を務めております。なんもと申します。『BREAKS』はユーザー操作によって、楽曲そのものを変化させることを目的とした創発系実験的音楽ゲームになります。ステージをクリアすることで変化させた楽曲を音声ファイルとして書き出すことも可能になっています。楽曲提供に佐野電磁氏*1を迎え、コミックマーケット83にてテクニカルプレビュー版の頒布を予定しています。

*1 ナムコ(とバンダイナムコゲームス)にてサウンドを手がけていた作曲家。『鉄拳』や『リッジレーサー』シリーズなどで作曲を行なっていた。ニンテンドーDSソフト『KORG DS-10』、『KORG M01』の開発に携わっていることでも知られる。最近ではPlayStation Vita用ソフト『orgarhythm』にもDLCとして楽曲を提供した。

開発の根底にあるもの

――『BREAKS』開発のきっかけはなんでしょうか。
なんも Kinect BeatWheel*2というKinectを利用してブレークビーツを切り替える演奏システムがあり、この発想をベースに、それを1曲単位に拡張して演奏とゲームを両立できないかというのがきっかけになります。

*2 音楽系の開発イベントMusic Hack Day Boston 2011にて発表された作品。説明するより動画を見たほうが早い。参考として日本語での記事も貼っておく。
Engadget 日本版 - 動画:Kinect でドラムループを演奏するKinect BeatWheel
http://japanese.engadget.com/2011/11/14/kinect-kinect-beatwheel/

――『BREAKS』も前作『Taplib』*3も演奏がひとつのテーマになっているようで、インタラクティブミュージックへのこだわりがあるとお見受けします。開発に際して特にこだわっている部分があればお教えください。
なんも 「こだわり」という点で言うと、演奏にこだわっているというよりは、より汎用的な「ゲームから生み出す、あるいは創発する」ことにこだわっています。そのきっかけは2009年のCEDECで富野由悠季さんが「ゲームは人類生産性を下げる悪である」*4という趣旨の基調講演をされていて、それに対する一種のアプローチとして現在まで制作を続けています。創発という意味ではさまざまなアイデアやアプローチがありますが、自分自身が学生時代に音声信号に関する研究やDTMを行なっていたこと、CGやAIなどの分野はあらゆる試みが多数あるのに、音声に関してはそのような試みが当時ほとんど見られなかったことが影響していると思います。それと音ゲーのジャンル自体に行き詰まりを感じていたことも影響していて、「演奏」というところに現在は落ち着いています。

*3 『BREAKS』の前になんも氏が開発した作品。センス・オブ・ワンダー・ナイト 2011(SOWN 2011)でプレゼンしており、なんも氏は同イベントで2年連続でプレゼンしている。
*4 CEDEC 2009での富野由悠季氏の発言は次の通り。「ゲームは,悪です。まず,ゲームは日常生活を支えるものではなく,エネルギーは消費される一方です。」。引用元は4Gamer。

4Gamer - [CEDEC 2009]「ガンダムの父」富野 由悠季氏が若いクリエイター達を挑発する基調講演,「慣れたら死ぬぞ」の中身とは?
http://www.4gamer.net/games/095/G009544/20090902047/

――音ゲーに関する言及がありましたが、『BREAKS』は音ゲーのようにスコアに重点をおいたゲームデザインなのでしょうか。
なんも ゲームデザインとしては、現状スコアを重視しています。ですが、従来の音ゲーと異なり音楽の出来がスコアと比例しません。演奏システムとして従来の音ゲーを捉えたとき、熟練度が高ければ高いほど演奏として同一になっていく点が問題だと感じていたので、演奏部分の自由度を高めたうえで最低限演奏的になるようにシステム側で補正する形にしています。

開発に関する諸問題、開発初期のものからの変更点について

――『BREAKS』の開発について苦労していたり、課題となっている部分があれば教えてください。
なんも 『BREAKS』の前身である『Taplib』は、「もともと考えていたゲームシステムに演奏システムを付加する」形で制作を進めました。対してBREAKSは「演奏システムを充足させるためにゲームシステムを付加する」形で制作を進めています。そのため、本質的には「ゲームシステムとしてはなんでもいい」ので、最終的にはゲームとは別の何かになる可能性が常にあります。『BREAKS』の次があれば、ゲームシステムと演奏システムを最初から融合させた形にできればなあ、と考えています。
――初期のプロトタイプ版動画を観ると、Short Delay、Reverb、Distortionと3つのサウンドエフェクトが挙げられています。これは現在も同じでしょうか。
なんも サウンドエフェクトについては、いくつか制作上の都合がありました。まずUnity Proとは異なり、当初『BREAKS』の開発を行なっていたUnity BasicではUnity付属のサウンドエフェクト類が使えませんでした。ただし、Unity Basicであっても、独自にサウンドエフェクトを実装することが可能だったので、Short DelayとDistortionについては独自に実装して問題解決を図りました。一方で大きな問題となったのがReverbです。Reverbは、Reverb Zoneという機能を利用したのですが、このエフェクトのかかった音声は録音できないという致命的な問題が生じてしまいました。最初はShort Delayも同様の問題を抱えており、結果、『BREAKS』はUnity Proなしでは完成しないプロジェクトになってしまいました。しかし、SOWN 2012でのプレゼンテーター向けにUnity Technologies JapanよりUnity Proが提供されたため、現在はUnity Proによる開発へと移行しており、それらのトラブルは回避することができました。コミックマーケット83で頒布予定のPCテクニカルプレビュー版では、Unity付属のサウンドエフェクトに差し替えるのみで、エフェクトの組み合わせは同じになる予定です。
――プロトタイプ版動画では、操作するボールが複数あったようですが、ここも変わった点でしょうか。
なんも それはプロトタイプ版より前から大きく変わった点です。当初はピンボールやブロック崩し、というか『アルカノイド』ですね。あれと同じようにボールが増えていく仕組みを考えていました。しかし、ボールの位置で左右ボリュームの調整を行う仕様を思いついたので、そこからボールが1つだけになりました。

『BREAKS』テクニカルプレビュー版について

――コミックマーケットでの頒布予定についてお聞かせください。
なんも 『BREAKS PC Technical Preview』は Win / Mac / Linuxに対応……予定です。コミックマーケット83の3日目、東 S-46a FullPowerSideAttack.comにて500円で頒布予定となっています。なお、現時点で委託販売の計画はありません。
――もともとタッチデバイスを想定していた『BREAKS』の操作ですが、テクニカルプレビュー版はPCでのプレイになります。操作周りはどのようなものになっているのでしょうか。
なんも 基本的にはマウスの左クリックドラッグで移動させる形になり、マウス左ドラッグでポインタの位置に向けてボールを加速、マウス右クリックでブレーキ、マウスホイールで加速度の変更となっています。これに合わせて演奏システムにも手を入れています。また、それ以外にも曲の長さ、つまりステージの長さの調整、スコアシステムの変更にエフェクト調整など、東京ロケテゲームショウでのフィードバックによる変更を多数取り込んでいます。
――楽曲提供は佐野電磁さんの『Gradation』からということですが、どういった背景からこのアルバムが選択されたのでしょうか。
なんも 佐野さんとは、SOWN 2011での『Taplib』の発表後にご挨拶させていただく機会があり、その伝手で『BREAKS』のシステムに関してご理解を頂き、『Gradation』の楽曲利用をお願いした形になります。実績やクオリティは言うまでもないところですが、『Gradation』は楽曲の幅――ジャンルが広いことと、『BREAKS』のシステム上の制約から、すべての曲のBPMが一定といったところも選定理由として挙げられるかと思います。
――収録曲はどのようになるのでしょうか。
なんも 東京ロケテゲームショウと同じで、収録曲は佐野電磁さんのアルバム『Gradation』より、Electric Prayer、Leaning Tower、Jz、Hand Your Handの4曲を収録します。
――技術的な問題に加え、著作権的な問題もはらむのだと思いますが、将来的にはプレイヤーの好きな楽曲でのプレイに対応することも可能なのでしょうか。
なんも 現在のゲームシステム上、ゲームの進行は全てBPMをベースにして制御されています。そのため、曲のBPMを正確に推定することができれば好きな曲でのプレイが可能な見込みです。著作権上の問題という意味では、クリア後のWAV出力で出力された音声ファイルの取り扱いが問題になりますが、コミックマーケット83で頒布するバージョンでは、ガイドラインを設定しそれに沿った運用となる予定です。

■最後に

――インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
なんも SOWN 2012で観覧、後日動画を視聴した方、東京ロケテゲームショウにてプレイ、アンケートにご協力いただいた方、誠にありがとうございます。東京ロケテゲームショウでは想像以上に「SOWNで見た」という方が多く、非常に驚きました。『BREAKS』はそのコンセプトがどうしても説明しにくく、触ってもらわないとわからない面もあります。有償での頒布ではありますが、ご興味ご関心ございましたら、コミックマーケット83のS-46a FullPowerSideAttack.comまでお足をお運びいただければと思います。

なんも氏のサイト「FullPowerSideAttack.com」
http://fullpowersideattack.com/
なんも氏のTwitterアカウント
https://twitter.com/nanimosa

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