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『LOOT』製作者インタビュー 前編

Posted on 2012年9月15日土曜日 | No Comments

『LOOT』が素晴らしく、作品についていくつか知りたいことがあったのでインタビューを申し出たところ、快くお答えいただいた。

インタビューは購入を検討中の未プレイの人や現在、プレイ中の人でも安心なネタバレなし編と、より突っ込んだ話が出てくるクリア済みの人向けのネタバレあり篇の2部構成となっている。こちらはネタバレなし篇。

インタビューに応えたのは、『LOOT』の企画者Janus氏。

Janus氏のサイト 家主はJanus
http://janusisjanus.web.fc2.com/

関連記事:
レビュー『LOOT』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot.html
『LOOT』製作者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot_9288.html

はじめに

――まずはサークルCREOについて自己紹介をお願いします。
サークルCREOのロゴ
Janus CREOは学園恋愛からミステリ、SFなど、おもしろそうと思ったノベルゲームを自由に作っています。これまではこみっくトレジャーなどの関西のイベントに参加していましたが、この夏はコミックマーケット82やコミティア101にも参加し、これからは関東のイベントにも参加していきたいと思っています。

CREO公式サイト
http://creo.main.jp/






作品のコンセプトと、それに影響を与えたコンテンツ

――本作の最大の魅力とも言うべき「ミステリと異能力の組み合わせ」ですが、この発想はどこから生まれたのでしょうか。
Janus 推理と能力を合わせた発想は特に何かの流れから来た発想というわけではなく、ふとした思いつきでした。元々私は推理モノはほとんど読まず、どちらかといえば漫画を好んで読んでいました。例えば『HUNTER×HUNTER』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『LIAR GAME』、『カイジ』といった、主に心理的駆け引きが熱い頭脳バトルの漫画ですね。【固定】や【借用】の能力はそのあたりからヒントを得ています。推理モノは、『LOOT』を作る2年ほど前に初めて綾辻行人の『十角館の殺人』を読み衝撃を受け、このようなノベルゲームが作りたいと思ったのがきっかけです。作品の中にパロディが出ているのもその影響です。ほかに影響を受けた作品と言えば、『うみねこのなく頃に』でしょうか。ミステリとファンタジー、チェスなど被る要素はありますが、だからこそ焦点の差別化を意識した部分は多くあります。
明人が恵に勧めた小説は鮎辻彰人『三角館の殺人』
ちなみにこのシーンは「安楽椅子探偵」という名である
――人狼(正式名称は『汝は人狼なりや?』)などの影響もあると耳にしたのですが、そのあたりを詳しくお教えいたけますか。
Janus 影響を受けた「作品」とは言えないのですが、『汝は人狼なりや?』や『あやつり人形』などのボードゲームはかなり影響を受けています。もともと私とBGM担当のA.SAKAがドイツのボードゲームをよく好んでプレイしていました。一時期は『ドミニオン』のオンラインプレイ配信などもしていましたね*1。『人狼』は有名なので説明は省きます。『あやつり人形』は、少しマイナーなのですが、これを読んでいる人や『LOOT』をプレイしてくれた方に是非オススメしたいボードゲームです。少しルールはややこしいのですが、簡単に言えば毎ターンそれぞれがリスクとリターンを天秤にかけながら役職カードを選び建物を建てていくゲームです。役職は「暗殺者」や「盗賊」、「商人」や「建築家」などですね。
――「盗賊」。
Janus といったようにどこかで聞いたような名前もあります。それぞれのプレイヤーは独立していて勝利を目指すのですが、ときに勝ちそうなプレイヤーを止めるために、ほかの人と協力するなど色々な思念やジレンマが交錯するゲームです。その要素は『LOOT』にも表れていると思います。『あやつり人形』の推奨人数は3人以上なのですが、A.SAKAと私でルールを2人用に改変したものは何度やったかわからないほどやりました。

*1 『ドミニオン』自体はアメリカ産だが、ドイツはボードゲームのメッカである。『ドミニオン』は、そのドイツのボードゲームシーンにおいて史上初の三冠達成したという、文字通り化物タイトル

特殊能力の取捨と選定

――さまざまな能力が登場するなかで、主人公の能力を【盗聴】にした理由はなんでしょうか。
Janus 主人公に【盗聴】を持たせるアイディアは企画開始時からあったものでした。『SIREN』というゲームの「視界ジャック」をヒントにしています *2 。視力ではなく聴力にしたのは、ノベルゲームでこの要素を作るならば、視界ではなく聴覚のみのほうが得られる情報の制限がかかって展開させやすいと思ったためです。
――盗聴ウィンドウも独特ですね。
Janus 盗聴ウィンドウは企画段階ではやる予定はなく、途中で思いついたものです。一度に大量の情報が入ってくるのは、プレイヤーには難しいのでなないかという意見も出たのですが、そこは目新しさを優先しました。その情報を処理している主人公を、ただ能力を持っているだけではない超人的な要素を持つ人間に描きたかったからでもあります。
――ほかの能力の選定はどういった経緯があったのでしょうか。
Janus ほかの能力もほぼ、企画開始時から出ていた能力でした。後から追加した能力は【察知】、【固定】、【借用】の3つです。【察知】は、主人公がほかの能力に気づくために用意しました。
元々は「周辺の能力者の存在がわかる」だけの能力でしたが、それでは【察知】の能力者が主人公と上手く遭遇できないため、「受けている能力がわかる」という能力を追加しました。【固定】は厨二バトル要素があってもいいだろう、という声から採用しました。【借用】はプレイヤーに推理の幅を増やす為に用意しました。【察知】持ちのミリヤが嘘をついていると全てが成り立たなくなってしまうので、ミリヤ以外の人物に【察知】させることで問題の解決を図ったんですね。しかし、勘のよいプレイヤーは、これが事件解決の糸口になったのかもしれません。
――本編には出てこなかった能力、いわゆるお蔵入りしてしまった能力というのはありますか。
Janus 【透過】や【顕現】などですね。【透過】は5分間、他人に気づかれなくなるという能力です。情報が漏れているのではないか、という危機感の演出のために出そうと考えていましたが、必要性がないと考え、今回は見送りになりました。『HUNTER×HUNTER』のメレオロンあたりからヒントを得ています。もうひとつの【顕現】は、他者の目に写っていない状態であれば好きな物質を創造することができるという能力です。ポケットからありもしない銃を取り出すとか、死体を偽造するなど色々と使用用途はありますが、ややこしくなりそうなのでこちらも見送りになりました。オリジナリティがあって推理的な要素も展開できそうな能力なので、もし今後続編を作ることがあれば登場することもあるかもしれません。

*2 「視界ジャック」。『SIREN』の根幹を成すゲームシステムで、視界を盗める能力。対象の人物の見る視界を同じように見ることができる

ネーミングに隠されたキャラクター設定

――能力の選定についてお聞きしましたが、初期の設定から変化のあったキャラクターはいますか。
Janus ヒロインの「九条ミリヤ」は、当初は学園のアイドル的存在というキャラ付けでした。
いきなりそんな人物に呼び出される、という王道的な展開で行こうと考えていたのですが、いつの間にかその要素はなくなっていました。ビリヤードが趣味という設定もあって、ネーミングもそこから来ています。この設定を受けて、ビリヤードをしながら主人公と事件の推理をするシーンを作る予定もあったのですが、「流石に滑稽」という意見が多かったためカットになりました。
――ネーミングの話はほかのキャラクターも同様ですか。
Janus キャラ付けのために全員の趣味をざっくりと決めていっていたので、その名残がネーミングに出ているキャラは多いです。「市松明人」はチェスから、市松(チェック)で明人(メイト)。「住良木一光」はポーカーから、住良木(皇/すめらぎ)がロイヤル、一がストレートで、光がフラッシュ。中島次郎は、厨二病というキャラ付けで当初は作っていた名残ですね*3 。ただ最終的には姉思いの不良という立ち位置になりましたが。柊由美は弓道、白石蔵吉は囲碁などです。
――白石は途中で名前が変わったようですが。
Janus 元々は「白石蔵之介」という名前だったんですが、たまたまカラオケに行ったときにうたぼんに「白石蔵之介」と載っていたため、調べたところ『テニスの王子様』に同姓同名のキャラがいることを知り変更になりました。

*3 「中」島「次」郎で「厨二」

BGMへのこだわり

――BGMの作曲者は4名もおり、驚きました。例えば「plot」は「plot reverse」と合わせ、2曲存在しています。
Janus 「plot」、「plot reverse」は、まず私が枠組みである「plot」という曲を作り、その後、A.SAKAがアレンジを加えた物が「plot reverse」になります。
――2バージョンあるアイキャッチのサウンドも、同様にお二方が担当していますね。作曲に対して特別な思い入れを感じました。
Janus 企画者の私自身がもともとBGM制作をしているため、BGMにはこだわっています。また、BGMがすべてオリジナルなのは、サークルの伝統です。ただすべての楽曲がこの『LOOT』のために作られたわけではなく、使えそうなものは以前のゲームに使用した曲なども再利用しています。とは言っても、再利用しているのは全体の2割ほどで、ほかはすべて『LOOT』のために作った曲です。
『LOOT original sound track』のジャケット
――印象に残っている曲や思い入れのある曲はありますか。
Janus 個人的に思い入れがある曲は、私の作った「Her Name Is …?」という曲です。さっちゃんのテーマ的な曲で、よく聞けば分かるのですが、例の童謡をアレンジしたものになっています*4
――個人的には「チェックメイト」という曲がとっても好みですね。
Janus 最終場面の「チェックメイト」、それにタイトル曲である「Loot」はよく評価を頂いている曲ですね。BGMについては、好評なことからサウンドトラックを出すことになりました。2012年9月16日開催のの「同人ゲーム.fes 2012 autumn」*5のときに『LOOT』のおまけとして配布する予定です。既に『LOOT』を持っている方は、会場で盗賊の名前をこっそり教えてくださればプレゼントいたします。イベント後には、フリーのBGM素材としても使用できるようにmp3とoggをウェブサイトで配布します。

*4 0:17あたりからがわかりやすい。元になっている童謡は、もちろん「バナナが大好きなあの娘」の歌
*5 大阪日本橋で開かれる同人ゲームイベント
http://doujingame-kouryukai.com/tf

未プレイの方へのメッセージ

――未プレイの方に一言メッセージをお願いします。
Janus 『LOOT』は未プレイの方にも、自信を持って薦められる作品になっているのでぜひプレイしてみてください。ゲームがおもしろそうなのかわからない方は、まず体験版を公開しているのでそちらで雰囲気を味わってもらえたらと思います。ですが、概要や雰囲気を見ておもしろそうと感じた方は、できれば体験版をせずに完成版を最後まで一気にやっていただけた方が満足してもらえると思っています。

続き:
『LOOT』製作者インタビュー 後編
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/09/loot_9288.html

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