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2012年6月18日月曜日

放物線の軌跡で起こす奇跡『Sphere』

ある人は言った。

「鳥のように大空を翔べたらなぁ」

数多のゲームはその言葉を実現しようと試みた。

あるときはジェットパック。あるときはスキーイング。あるときは瞬間転移の魔法。インラインスケートにムササビスーツ。ひるがえっては超人、あるいは彼らが放つ蜘蛛の糸。

例を挙げれば枚挙にいとまがない。

鳥にならずともよい。自由に三次元空間を行き来するというのは、それだけで魅力的な行為なのだ。二本の足で地上にへばりつく我らにとって、それは共通する欲求なのかもしれない。

近年のゲームでは、三次元空間の真理に手をかけ、目にする空間すべてに股かけることを可能にした「ポータルガン」が記憶に新しい(と言っても5年も前である)。

神をも畏れぬこの発明品はまさにエポックメイキングだった。ポータルガンを扱った作品『Portal』は一人称視点のアクションパズル、通称「First Person Puzzler」というジャンルを確立するに至った。

さてさてようやく本題である。

今回紹介する『Sphere』もFirst Person Puzzlerと呼ばれるゲーム。『Portal』の後を追ってこのようなゲームは多数リリースされたが、なかでも  『Sphere』 の感触はとてもよい。シンプルなルールと気持ちのよいアクション。私が求めていたFirst Person Puzzzlerはこういうゲームだ。

ボールの軌跡をトレースするという不思議な感覚

フランスの学生たちによるプロジェクト 『Sphere』 はUnityで開発されている。ジャンルは冒頭でも述べたようにFirst Person Puzzzlerだ。
基本的な操作は進行に応じて壁に記されているというスタンダードな手法を取っている
最大の特徴は「ボールを投げると、プレイヤーがそのボールの描いた軌跡をトレースして移動できるようになる」という点である。

プレイヤーはゲーム開始時から謎の球体(Sphere、以下ではボールと呼ぶ)を持っており、しばらくゲームを進めると特殊な力を手に入れる。力というのは先ほど述べた「プレイヤーがボールの軌跡をトレースできるようになる」というものだ。力を使うときは次のような操作を行う。

1.記録開始: まず左マウスボタンでボールを投げる。FPSでグレネードを投げる感覚に近い
2.記録終了: 再度、左マウスボタン(またはAltキー)を押せば、ボールが手元に戻ってくる
3.トレース: 右マウスボタンを押し続けると記録した挙動に沿ってプレイヤーが移動する
記録した挙動は白っぽい点線で表示される
本作ではプレイヤー自身のジャンプ力がもともとかなり低く設定されているのだが、この特殊な力によってボールを投げて届く場所ならプレイヤーも簡単に行くことができるようになっている。トレースはいつでも中断でき、トレースジャンプ中に足場を通り越してしまうということは基本的には起こらない(トレースを中断すればよい)。

さらにこのメカニックのおもしろいところは、プレイヤーが必ずボールの軌跡をそのままトレースすることである。

例えばボールが床でバウンドする挙動を記録したとしよう。その後、床のない部分を向いて軌跡をトレースをしてみると、あたかも宙空に床があるかのようにプレイヤーはバウンドしながら進んでいくのだ。この挙動はアクションゲームによくある2段ジャンプや3段ジャンプのそれに近いが、本作においてそれはあくまで記録したボールの挙動である。逆に言えば、ボールが思うように投げられない場所では2段ジャンプのようなことはできない。
例えばゲーム序盤のこのシーン。ボールを投げても届かないような場所に扉がある
すぐ横には奈落よりも長い廊下。
ゲームメカニックを正しく理解していれば、自ずと解は浮かび上がってくる
なお、本作を解き進めていくなかでこのテクニックはとても重要で、同時にほかのゲームにはないユニークな体験を作り出している。

この力の使い方はなにも2段ジャンプだけではない。

トレースはいつでも可能なうえに、挙動の記録は新たに記録しない限り消えない(新たに記録すると上書きされる)ため、上に向かってボールを投げて記録し、足場からの落下の途中でトレースを始めて別の足場への復帰に使ったりもできる。

ボールを投げたときの効果音とプレイヤーが軌道をトレースする際の効果音もよく、アクションが単純に気持ちよいことも素晴らしい点である。

また、ボールが壁に当たってバウンドするときは、特徴的な(それでいて不自然ではない)音が鳴り、ボールが目に見えない場所でもおおよその挙動を想像しやすくなっている。メカニックそのもののおもしろさに加えて、このような気の利いたゲームデザインが施されているのは、実に素晴らしい。

ややシンプルだが、無駄のないレベルデザイン

レベルデザインに目を向けてみよう。

レベルは全部で7つで、各レベルはいくつかのエリアから構成されている。エリアは『Portal』のチャンバーのように明確に分かれているわけではなく、それぞれがシームレスに接続された形をとる。レベルごとに応じてコンセプトがあるというよりかは、進行上の区切りのいいところをレベルとしているという印象。

難易度の上がり方に無理はなく、無難にまとまっている。ゲームメカニックの基本をしっかりと把握して順次応用していけばよく、曲芸めいたテクニックは不要だろう。もっともプレイヤー自身は曲芸めいた動きでレベルを突破していくことになる。

奈落に落下した際は、落下の途中で画面がブラックアウトして近くの足場に復帰するのだが、奈落の底に着地してしまい、やり直すしかないという状況に何度かなった。頻発するわけではないものの、残念な点である。

そういった状況に陥った場合は、ECSキーでメニューを表示して該当のレベルをやり直せばよい。クリア済みのレベルがすべて表示されるので、任意のレベルをやり直すことも可能。F12キーでも同様にレベルのロードを行えるが、ESCキーで表示されるものとはレベルのナンバリングが異なり、動作も不安定なのでオススメしない。

レベルを彩る要素として以下のようなオブジェクトが登場する。
特定の扉を開けたり、仕掛けを作動させるスイッチ。
中央部にボールをぶつけて動作させる。オン・オフを切り替えられるものもある
ボールを強くバウンドさせる赤い床
プレイヤーは通過できるが、ボールは跳ね返す半透明の壁
ほかに動く足場が出てくるものの、多彩とは言いがたいラインアップだ。が、レベルから使いまわしはあまり感じられず、全体も無駄なく仕上がっているという印象。よって私は、無理に難解なオブジェクトを登場させなかったのは成功していると評価したい。

ついでなのでグライフィックとサウンドについて言及しておこう。

グラフィックはオプションから6段階で設定可能だが、影以外に大きな差はあまり感じなかった。動作自体は軽いようなので最高画質のFantasticでいいと思う。グラフィックそのものはぬくもりを持った無機質とでも言おうか、不可思議な雰囲気を放っており私の好み。ひと目で惹かれた。


ロケーションはずっと室内が続くのであまり代わり映えはしない。自然環境でなくとも屋外のシーンがあればより豊かなシチュエーションを実現できただろうが、小粒な学生プロジェクトにそれを求めるのも無理があるかもしれない。


SEは先ほども言及したが、ボールを投げたときやボールの挙動をトレースする際に発する空を切る音が心地よい。また、ボールが壁にあたって跳ね返るときは鉄琴のようなひんやりとした音が鳴る。ボール(Sphere)の素材が金属っぽいこともあって非常によいと思う。

BGMは控えめながらやや物哀しい雰囲気(特に後半のレベル)で悪くはない。SEとのバランスもちょうどいい。

ブラウザ版とダウンロード版でプレイ可能

『Sphere』は無料で提供されており、公式サイトを訪れればブラウザ上でプレイできる(Unityプラグインが必要)。また、ダウンロード版がWindows、Macともに提供されている。フルスクリーンでプレイするならダウンロード版だろう。

『Spere』公式サイト
http://www.remiboutin.com/projectsphere/en/sphere.html

ちなみに私はダウンロード版の存在に気づかず、最初はブラウザ版でプレイしたのだが、最初のイントロ画面でのロードに結構長く時間がかかった(3分くらいだと思う)。環境固有の現象なのかはわからないが一応。ゲーム体験は魅力的なのでお茶でも淹れて気長に待ってほしい

英語版とフランス語版があるが、ストーリーはイントロとエンディングに出てくる数センテンスだけで、英語が読めなくてもプレイに支障はない。エンディングは短いながら私の好みであることも付け加えておこう。

プレイ時間は全部で1.5~3時間程度。

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