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ショートレビュー『Dust』

Posted on 2012年4月15日日曜日 | No Comments


IGF 2012で知ったゲームのひとつ、『Dust』について語ってみたい。ガチガチDRMで話題となったゴッドゲーム*1でもなければ、スタイリッシュお掃除アクション*2でもない。意味は全く違うが、「胡蝶の夢」という言葉がぴったりな本作の魅力とは。

*1 『From Dust』。UBIお得意のキツいDRM認証により、PCゲームファンから猛反発を食らった
*2 『Dustforce』。キレのあるアクションが特徴のインディーズ2Dアクション

概要


■ジャンル 2Dアクション
■開発 Team Dust
■パブリッシャー
■プラットフォーム PC
■リリース日 たぶん2011年11月
■価格 無料
■入手経路 公式サイトでのダウンロード、ブラウザ上でのプレイ
■公式サイト http://exploredust.com/
■プレイ時間 20分~45分

はじめに。本作でプレイヤーが操作するのは蛾だ。

体の何倍もある大きな翅で宙を舞い、鱗粉を撒き散らしながら闇を翔びまわるアレのことだ。プレイヤーは薄暗い夜更けの物置き部屋を漂いながら、骸と化した仲間たちを集めていく。『Dust』はそんなゲームである。

あえて陰鬱な出だしで始めてみたが、『Dust』にはほかにはない魅力が詰まっている。それは蝋燭に灯る炎のようにぼんやりとしているものの、同時に確かな輝きを放っている。

開発はアメリカ・アリゾナ州にあるThe Art Institute of Phoenixの学生らが結成したTeam Dust。8名で構成されている。メインの開発に要したのは6ヶ月と短く(そのほか、微調整に時間を割いている模様)、すでにフルバージョンながらプレイ時間もかなり短い部類。しかしながら彼らの美術に対するこだわりも並のものではなく、IGF 2012の学生部門でファイナリストとなるほどに評価は高い。

実は背景の絵画に描かれている人物像はTeam Dustの面々

Gamasutraのインタビュー*3で、Team Dustはもともと童話(storybook)のような雰囲気を目指していたことを明かしている。最初は1950年代公開のディズニー映画『わんわん物語(原題:Lady and the Tramp)』やMatt Gaserからインスピレーションを受けていたそうだが、それはうまくいかなかったようで、最終的には『Trine』のアートスタイルの影響を受け始めた頃から成功への鍵だったと結んでいる。

イントロから絵本のようなテイストを垣間見ることができる
なお、同インタビューでは、椅子やテーブルが建造物のように大きくそびえ立って見え、書物やボールといった本来小さなものですら大きな障害物となるのがユニークな環境構築につながると考え、蛾(虫)をモチーフとした、とも語られている。

開発エンジンはUnityを採用。公式サイトでファイルをダウンロードできるほか、公式サイトではブラウザ上でのプレイも可能。無論、Unityプラグインが必須となる。



ショートレビュー

操作デバイスとしてXbox 360コントローラを標準でサポート。左スティックで移動、Aボタンで近くにあるランプや蝋燭などに明かりを灯すことができ、また付近の蛾の死骸を蘇らせることができる。「主人公は魔法の蛾だ」と開発が説明している*4ので明かりをつけたり、蘇生を施したりできるようだ。おそらく白魔法の使い手なのだろう。

*4 You play a moth. Not just any moth, a magical moth.(あなたが操作するのは蛾だ。しかし、それはどの蛾とも違う、魔法の蛾だ) 公式サイトの序文より

電球のマークが明かりを灯せる場所を、
蛾のマークが仲間の死骸のある場所をそれぞれ示している
明かりのないところにいると、視界がだんだん閉じていき、
最終的には近くのチェックポイントからやり直しになる

ビジュアルは3Dながらゲーム性は完全に2Dというスタイルを採用している。レベルデザインは探索に重きをおくようなものではなく、進行はリニア。複雑なゲームではない。

たびたび道が塞がれている場面に出くわし、そこは仲間の蛾と協力することで進路を切り開くことができる。仲間は右スティックで操作でき、なんらかのボタン(STARTなど一部除く)を押せばその数を確認可能。

例えば蜘蛛の巣が進路を遮っている場面。

写真中央下の蜘蛛の巣が邪魔になっている

ここでは近くにある車のおもちゃを動かすことで蜘蛛の巣を破り、先に進めるようになる。プレイヤー自身では車を動かすことができないので仲間に車を押してもらう。ただ車を押すにしても一定数の仲間が必要となり、先へ進むにはマップ上を探索して仲間を集めなければならない。

オブジェクトの近くの背景には数字が描かれており、
その数字の分(この場合は5)だけ仲間がいればオブジェクトを動かせる
序盤に訪れるここはわかりづらい。
オブジェクトは横方向だけではなく、縦方向にも動かせるというのがポイント

『ピクミン』シリーズや『Overlord』シリーズのメカニックに似ているのでいずれかの作品を知っていると理解がしやすいかもしれない。

先の2作品ではプレイヤーの子分が戦闘や罠などで死ぬこともあり、常時その数を管理しなければならなかった。一方の『Dust』では仲間は増えるものの減ることがなく、アクション性も高くない。このため、『ピクミン』や『Orverlord』に似かよった部分を持ち合わせてはいるが、プレイフィールはまったく異なる。動かせるオブジェクトや各種マーカーが青白くハイライト表示されるうえに、マップ上に置かれた(こんぺい糖のような形の)光に沿って進めばよいので難しく感じる場面も少ないだろう。

乱暴に言ってしまえば『Dust』は「閉ざされた門を開くためにマップをうろちょろし、必要な鍵を集めたら門を開けて進む」というただそれだけのゲームなのだ。

しかしながら、たったそれだけの体験を開発チームは美しく味わいのあるビジュアルと、ピアノが奏でる穏やかなメロディによってずっと価値のあるものに仕上げている。

背景のほとんどは最初は闇に包まれてぼんやりとした輪郭でしかない。そこにプレイヤーが明かりをつけ、ひとたび背景を照らし出してやると、暗かった部屋に生活の息吹が徐々に甦ってくるのだ。明かりによって見えてくるのは乱雑に積まれた本や、埃にまみれていそうなテディベア、忘れ去られたようなおもちゃといったものだが、先ほどまで闇に覆われて眠っていたものが目を覚ますような不思議な感覚がある。

淡い光が照らしだす世界は幻想的で、うっとりするような美しさがある。
明かりを灯したときの効果音もよい

プレイヤーの手で、一足早く朝を呼び起こしているような感覚とでも言ったらよいだろうか。

闇に眠る仲間たちを甦らせ、その過程で部屋にも命を吹き込んでいく。その手触りが『Dust』独自の魅力なのだろう。楽しい夢と同じでプレイはすぐに終わってしまうが、夜風をもっと心地よいものにするのなら最適なインディーズゲームとなりそうだ。

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